そして期末テストも無事終了して、穂南には梅雨明けと同時に部活の日々が戻って来た。安藤は勉強の成果か、奇跡的に全ての科目で赤点を免れ、夏休みの補習に出なくていいと喜んだ為、既に穂南の憂いはなく、夏空のもとで走ることに専念できるのが嬉しかった。

「穂南! 調子いいね! さっきベストに近い記録だったじゃん!」

10本のタイムチェックを振り返った仲間が穂南に声を掛けてくれる。テストでうっぷんが溜まっていた分、解放的に走れていて、タイムが良いことは穂南も分かっていた。

「やっぱり気分ってタイムに出るのかな。今、めちゃくちゃ走るのが楽しくて」
「あー、分かる。テスト明けって、特にそうだよね~」

気持ちの分かり合える仲間との会話は心が弾む。

「今が大会だったらいいのにな。そしたら、自己ベスト出せる気がするのに」
「最後の夏だと思うと、気負いがどうしてもね~……。思わないようにしてても、なんかどっかで引っかかるんだよね~……」
「わっかるー。足が重たくて動かない夢とか見るわ……。起きた時、めちゃくちゃしんどいの……」

それは穂南にも分かる。去年も夏の大会の前に夢見が悪くて、それをカバーしようと無理に練習をし過ぎて、結果、記録が出せなかった。今年の夏は同じことを繰り返すまいと思っても、不安は容赦なく穂南を襲う。

暗い気持ちに呼応したかのように、遠くでゴロゴロと雷鳴が聞こえた。夏の夕方にはよくありがちな、黒い雲が空を覆い始めている。じきに、大粒の雨が落ちてくるのだろう。地面の焼ける匂いが鼻孔に思い出される。今が最後の夏だと、思わせた。