ガタン、ガタガタ。生徒が座席に着く音が教室に響く。

「あー、残念。夏樹くんと離れちゃったー」
「うわ、夏樹くんの隣、鉄女じゃん」
「でも、逆に鉄女なら安心じゃん? 絶対夏樹くん取らないもん」

一学期の期末テストを前に、席替えが行われた。座席の前後左右で一喜一憂するなんて、小学生かな。そんなことを思いながら、穂南は新しい座席に着いた。

クラスの女子たちが騒いでいる夏樹とは、穂南の隣の座席の、学年一モテるチャラい男子・安藤夏樹のことだ。穂南はこの男の、チャラチャラして何の努力もしない所が嫌いだった。授業は寝てばかり、宿題は人のものを写す、体育の授業も手を抜いているのが丸わかり。どれをとっても穂南と相容れるところがない。向こうも多分、そう思ってる。だからこの席にいる間も彼に関わらないつもりだ。

「川崎さん、隣、よろしくね。俺のことは夏樹って呼んでくれていいから」

へらっと笑って安藤が穂南に手を差し出す。でも穂南はその差し出された手を無視した。慣れ合うつもりはない。ツンとした態度だったと思うのに、安藤は穂南の態度を気にした様子もなく、差し出した手を引っ込めた。