みんなの冷たいと感じる視線が一斉に私に集まる。怖い。左手首をぎゅっと掴んで必死に耐える。
 でも、最も恐怖を感じているのは、元々白い顔が青白くなっている七瀧くんだと思った。
「……私は七瀧くんの味方だから」
「言葉だけなら何とでも言える」
「えっ?」
 恐怖をほんの少しでも和らげようと思って伝えた言葉を全否定されて、うろたえる。
「俺が否定しないのは何でだか分かるか?」
「……分からない」
「事実だからだ」
 嘘だと信じられないような気持ちで、「事実?」と聞き返す。
「ああ。俺は小一……誕生日前の六歳の頃に、鬱病の恐れがあると診断されていた母親に向かって『死ねよ』って言葉を吐き捨てた。その次の日の夜中だ。母親が行方不明になったのは。先月でちょうど七年経って、とうとう死亡扱いになってしまって、静かに葬式を済ませた…………」
 七瀧くんは苦しそうに眉間に深い皺を寄せていたけど、突然組んでいた手を素早く外してその場に立ち上がった。
「俺は母親に言葉の暴力を振るって自殺に追い込んだ人殺しだ。今の話を聞いて、関わりたくないと思った奴は無理して関わらなくていい。ってか……関わんな。冷たい目向けてくんのも構わねーし悪口も陰口も全部受け止める。一番嫌なのは、なんも分かってねーのに分かったような振りして、辛かったね可哀想って同情してくることだから。……以上」
 七瀧くんは現時点で教室内にいるクラスメイト全員に聞こえるぐらいの声量で言った。
そんな七瀧くんの左横に立ったのは谷向くんだ。
「懇願だよ、懇願。こいつはひとりになることを心の底から望んでんだ」
 ひとりって一人? それとも独り? 勝手なこと言わないで。
「こいつと話すのは必要事項を伝達する時だけで頼む。でもできるだけ俺を通してくれ。俺に伝達すれば俺がこいつに伝えるから。ひとりつっても本当にひとりになるわけじゃない。俺と小学の時からの友達が積極的に関わっていくつもりだから心配要らねぇ。……みんな。幼馴染として俺からも頼む。こいつに関わらないでやってくれ」
 谷向くんはみんなに向かって深々と頭を下げた。 
 みんなは、こくりと頷いたり、「分かった」や「了解」という返事を返したりするだけで、首を横に振ったり、納得できないと不満を漏らす人もいない。
「何それ……」
 訳の分からない状況にそんな呟きが私の口から漏れた。
「私は関わりたいからこれからも変わらず関わるから」
 私がそう言った途端、左斜め前にある背中が少し揺れたような気がした。
 と、背中の主である七瀧くんが顔だけ私の方に向けて、大きなため息をついた。
「赤根川天寿。そっとして置いて欲しいって言ってんのが分かんねーのか?」
 七瀧くんは私を見ている。でも、その澄んだ黒色の双眸には私がちゃんと映っているのだろうか。映ってないだろうなと思いつつ答えた。
「分からない」