私のことが、ではない。
 いくら、中学生の今と比べて、考えるより先に行動することが多かった、小四の時とはいえ、だ。相手の気持ちを訊けるような性格ではなかった。
 ただ、アニメのキャラクターの色鉛筆を指差しながらそのアニメが好きなのかどうか、質問しただけだ。
 七瀧くんの返答は予想外なものだった。

 二年ぐらい前まではハマってたけど、今はそんな好きじゃない。

 必死に考えたけど、結局、そうなんだ、としか返せなかった。
 それ以上話を広げることができなかった。そのまま逃げるように教室を出て家に帰った。
 もし、七瀧くんが、好き、だと肯定してくれたら、私も好きだよ、と笑顔で返した。そしたら、もう少し長く話を続けられたはずなのに。
 分かっている。自分の期待通りの返事をしてくれなかったといって、腹を立てるべきではない。
 寧ろ、適当に誤魔化さずに正直に答えてくれたことを喜ぶべきなのかもしれない。
 あの日から三年経った今はそう思う。
 それでも、あの時は言葉では言い表すことができないほどのショックを受けたのだ。
 一度目のチャレンジが失敗に終わってからなんだか話しかけづらくなって、自分から話しかけるのをやめた。
 小六の時、一番仲のよかった友達が七瀧くんのことを好きらしい、と噂で聞いて、トラブルを避けるために諦めようとした。
 でも、どうしても、諦めきれなかった。
 今年中学に入学して、その友達とクラスが分かれてチャンスだと思ってしまった。
 どうしようか迷った末に、覚悟を決めて、ゴールデンウィーク明けから毎朝話しかけ始めた。
 休み時間、給食中、昼休み、放課後は、幼馴染や友達と楽しそうに喋っているから、決して邪魔することはできない。
 私が心置きなく七瀧くんとおしゃべりできるのは、教室に入ってHRが始まるまでのこの時間。
 だからこそ、一秒たりとも無駄にしたくない貴重でかけがえのない時間なのだ。
「これ、と同じやつ買ってもいい?」
 私はブックカバーを指差しながら許可を求める。
 すると、今日初めて七瀧くんが顔を上げて私の顔を見てくれた。
 しかし、朝にふさわしい爽やかな笑みは浮かべておらず、露骨に不機嫌そうな顔をしている。
「変な誤解されたら困るからやめろ」
 七瀧くんの言葉で心配になって、周りを見渡すと、何人かの女子と目が合って睨まれた。……ような気がしただけで、きっと被害妄想だ。
 私は自分にそう言い聞かせて、内緒話を打ち明ける時の声の大きさで言った。
「大丈夫だよ。女子にも男子にも人気の商品だから、たまたまおそろいになっちゃっただけだと思うって、嘘吐くから」
「おい、今更小声で言っても手遅れだぞ……。もう一度言う。変な誤解されたら困るからやめろ」
 そんなこと言わないで。私は心の中で懇願しながら、七瀧くんを見詰める。
「わざとだろ?」
「……わざと?」
「わざと傷ついた表情すんな」
「え、してないよ?」
「じゃあ……本当に傷ついたのか?」