七瀧くんの言葉でハッとして見れば、谷向くんの腕がぷるぷると震えていた。限界をとっくに超えているのが分かる。
「手を離せば楽になるし、俺も楽になる。死なせてくれ」
七瀧くんは涙を流していないことを不思議に思うぐらい、泣き顔にしか見えない笑顔を浮かべていた。
そんな顔しないで、と胸が張り裂けそうになる。
「離せよ。赤根川もいつまで俺の指握り締めてんだよ。離せ」
「嫌だ、離さない!」
「分かった」
「えっ!?」
谷向くんの方に顔を向ける。谷向くんは苦しそうに顔を歪めていて、額からは汗が零れ落ちている。
「何驚いてんだよ……。お前も当然離すんだぞ。お前の力だけじゃ、透埜は引き上げられねぇからな」
確かに谷向くんの言う通り、もし谷向くんが離せば、私は何もできずに七瀧くんと一緒に落下してしまう。
「透埜。お前が落ちたらすぐに俺も場所をずらして落ちるから」
谷向くんは静かな声でそんな宣言をした。
自分が手を離して七瀧くんが落下した後、谷向くんは後追い自殺をするつもりなんだ。……それなら。
「私もそうする。一緒に死ぬ」
「お前は生きろ!!」
七瀧くんと谷向くんの二人が同時に同じ言葉を言った。
納得がいかない私が文句を言いかけた直後、谷向くんが呻き声を上げて前のめりになる。
手は離さなかったけど、腕や手の痙攣は見る見るうちに激しくなっていく。
「俺は地獄に逝くから、天国にいるお母さんには会えない。でも。もし、何かのミスで、再会できたら、ちゃんと謝りたい」
「……ごめんな、透埜。いじめて、追い詰めて、ごめん。俺が全部間違ってた」
「謝んなよ、お前は悪くねぇ。お前なりに必死に考えてやったことなんだから俺は責めない」
「……否定して欲しいって頼んだお前の気持ち、分かった気がする。否定しろよ」
「俺をいじめた理由。想像の斜め上をいくものだったから動揺したけど、否定しない。死ぬ前に否定したくねぇ」
「ごめん……。もう謝ることしかできねぇよ」
すぐ右隣から谷向くんの鼻を啜る音が聞こえた。
限界なのだろう。かろうじて掴んでいるという状態のの自分から手を離そうとしていることに気づく。
どうしよう。どうすれば。駄目だ。救えない。何もできない。自分の無力さを痛感して涙が溢れてきた。
「赤根川……。俺がお母さんを自殺という最悪な選択肢を選ばせた人殺しっだって知っても、人殺しって言わないでくれてありがとう。……俺、お前にだけは人殺しって言われたくないみたいだわ。もし言われたら、傷ついて立ち直れなくなる。もう言ってもいいけどな。死ぬから」
「死ぬ直前だからといって言うわけないし。駄目だよ……。死なないで。お願い」
泣きながら懇願した。
けれど、七瀧くんは私の右手ごと自分の左手を掴んでいた谷向くんの手を躊躇なく引き剥がしていく。谷向くんは声を発することも、七瀧くんの手を再び掴もうとすることもなかった。
七瀧くんは、まだ自分の左手の指を掴んでいる私の指も引き剥がすと、谷向くんの右手の指を引き剥がす。
七瀧くんが崖底に向かって落下した瞬間、私は必死に手を伸ばして七瀧くんの手を掴んだ。残っている全ての力を振り絞って上に引っ張る。
「離せ赤根川っ!! 何してんだよ!?」
七瀧くんがぎょっと目を剥いて叫ぶ。返事をする余裕は微塵もない。手が、腕が、肩が、身体がぶっ壊れたって、私だけ落ちてぐちゃぐちゃになったっていい。七瀧くんに生きて欲しいと思った。駄目だよ。七瀧くん。きっと、七瀧くんには幸せな未来が待ってる。こんなところで死んじゃ駄目だ。
「手を離せば楽になるし、俺も楽になる。死なせてくれ」
七瀧くんは涙を流していないことを不思議に思うぐらい、泣き顔にしか見えない笑顔を浮かべていた。
そんな顔しないで、と胸が張り裂けそうになる。
「離せよ。赤根川もいつまで俺の指握り締めてんだよ。離せ」
「嫌だ、離さない!」
「分かった」
「えっ!?」
谷向くんの方に顔を向ける。谷向くんは苦しそうに顔を歪めていて、額からは汗が零れ落ちている。
「何驚いてんだよ……。お前も当然離すんだぞ。お前の力だけじゃ、透埜は引き上げられねぇからな」
確かに谷向くんの言う通り、もし谷向くんが離せば、私は何もできずに七瀧くんと一緒に落下してしまう。
「透埜。お前が落ちたらすぐに俺も場所をずらして落ちるから」
谷向くんは静かな声でそんな宣言をした。
自分が手を離して七瀧くんが落下した後、谷向くんは後追い自殺をするつもりなんだ。……それなら。
「私もそうする。一緒に死ぬ」
「お前は生きろ!!」
七瀧くんと谷向くんの二人が同時に同じ言葉を言った。
納得がいかない私が文句を言いかけた直後、谷向くんが呻き声を上げて前のめりになる。
手は離さなかったけど、腕や手の痙攣は見る見るうちに激しくなっていく。
「俺は地獄に逝くから、天国にいるお母さんには会えない。でも。もし、何かのミスで、再会できたら、ちゃんと謝りたい」
「……ごめんな、透埜。いじめて、追い詰めて、ごめん。俺が全部間違ってた」
「謝んなよ、お前は悪くねぇ。お前なりに必死に考えてやったことなんだから俺は責めない」
「……否定して欲しいって頼んだお前の気持ち、分かった気がする。否定しろよ」
「俺をいじめた理由。想像の斜め上をいくものだったから動揺したけど、否定しない。死ぬ前に否定したくねぇ」
「ごめん……。もう謝ることしかできねぇよ」
すぐ右隣から谷向くんの鼻を啜る音が聞こえた。
限界なのだろう。かろうじて掴んでいるという状態のの自分から手を離そうとしていることに気づく。
どうしよう。どうすれば。駄目だ。救えない。何もできない。自分の無力さを痛感して涙が溢れてきた。
「赤根川……。俺がお母さんを自殺という最悪な選択肢を選ばせた人殺しっだって知っても、人殺しって言わないでくれてありがとう。……俺、お前にだけは人殺しって言われたくないみたいだわ。もし言われたら、傷ついて立ち直れなくなる。もう言ってもいいけどな。死ぬから」
「死ぬ直前だからといって言うわけないし。駄目だよ……。死なないで。お願い」
泣きながら懇願した。
けれど、七瀧くんは私の右手ごと自分の左手を掴んでいた谷向くんの手を躊躇なく引き剥がしていく。谷向くんは声を発することも、七瀧くんの手を再び掴もうとすることもなかった。
七瀧くんは、まだ自分の左手の指を掴んでいる私の指も引き剥がすと、谷向くんの右手の指を引き剥がす。
七瀧くんが崖底に向かって落下した瞬間、私は必死に手を伸ばして七瀧くんの手を掴んだ。残っている全ての力を振り絞って上に引っ張る。
「離せ赤根川っ!! 何してんだよ!?」
七瀧くんがぎょっと目を剥いて叫ぶ。返事をする余裕は微塵もない。手が、腕が、肩が、身体がぶっ壊れたって、私だけ落ちてぐちゃぐちゃになったっていい。七瀧くんに生きて欲しいと思った。駄目だよ。七瀧くん。きっと、七瀧くんには幸せな未来が待ってる。こんなところで死んじゃ駄目だ。