「おはよう、天音」
 写真の中で花が咲くように笑う天音に声をかける。
 そして、いつものように壁に花の絵を貼り付ける。だけど、今日は2枚。僕が描いたのと、響子がくれたの。
「響子が誕生日おめでとうって描いてくれたよ。天音が好きな色だね」
 響子がくれたのは、オレンジ色のガーベラの絵。『あなたは私の輝く太陽』って花言葉がすてきだ。
 そして、その絵に添えられていた手紙を開く。破らないように、そっと。
『奏へ
 19歳の誕生日おめでとう。
 新曲も聴いたよ。
 ラブソングを歌うとは思わなかったからびっくりしちゃった。
 でも、すごく好きだよ。
 これからも応援してるよ。
 奏と天音ちゃんの音楽が、ずっと響き続けますように。
 いい1年を。
                 響子』
 響子の手紙を封筒に戻す。
 そのラブソングは、響子のことを考えながら歌っただなんて、口が裂けても言えないよ。
 天音に似てるなと思ってつい声をかけてしまった彼女は、僕の心の隙間を埋めていった。
 振られてしまったけど、まだ彼女のことが好きだ。諦めなくちゃいけないって分かってるけど、それでも好きだ。
 音楽を奏でて、響子とまだ一緒にいられるだけで幸せ。
 ピアノの蓋を開けて、椅子に座る。
 そして、ジャスミンを弾く。
 部屋に天音の優しい音楽が溢れる。
「やっぱり、音楽って素敵だなぁ」
 響子、ファンでいてくれる人たち、天音。たくさんの笑顔を思い浮かべる。
 彼らは決まって、「天音の曲を聴くと、勇気が湧いてくるんです!」と言う。

 ──誰かに笑顔とか勇気を届ける!
 
 あのとき、天音と約束した。
 天音は治療がつらくても、音楽を聴いたら元気になるって笑ってた。
 その姿を見て、思ったんだ。
 どこかの誰かに、僕の──僕らの音楽が届いて、ちょっとでも心の支えになるのなら。
 そんなに幸せなこと、ないよなって。
 音楽を続けることは、怖くて大変なことで、挫けてしまうこともあるかもしれない。 
 でも、僕はもう大丈夫だ。
 音楽の力を知ったから。
 音楽に救われてきたから。
 僕らは今日も歌う。
 枯れそうな花を、また咲かせるために。