「? 梶原?」
「……、……お、……おまえも、きがえろ」
「は?」
言ってる意味が分からなかった。鳴海が着替えてどうしようと言うのだろう。鳴海は梶原をクロピーに仕立て上げたかっただけなので、これで目的は果たせてしまったのだ。
「お前も着替えろっつってんだよ! じゃねーと、写真が撮れねーじゃねーか!」
「あ、……あーあ、そゆこと……」
一人のクロピー姿の梶原を撮っても良いけど、それだと梶原がクロピー好きだとばれてしまう。この前栗里たちに鳴海がピーロ好きだと言ってある手前、鳴海が着替えないと梶原は自分の写真が撮れないのだ。それは失念していた。なにせ鳴海は梶原をクロピーにしたくて仕方なかったのだから。
「分かったわ……。テキトーに着替える……」
しゃーない、テキトーに探すわー、と言いながら鳴海がクローゼットを開けるのを、梶原がかぶりつく勢いで取って代わった。
「おっまえ、このクロッピと一緒に写るんなら、あのキッティしか居ねーだろ!! これだっ! これを着ろっ!!」
梶原がクローゼットから抜き出したのは、鳴海の覚えていない、あの企画の時のキッティの衣装らしかった。ピンクで白いレースとリボンが沢山ついた、如何にもお姫さまチックな衣装だった。正直、げんなりである。
「こーゆーのはさあ……、由佳みたいな子が似合うのよ……。私じゃないと思うわー……」
「し……っ、仕方ねーだろ!! 俺の彼女はお前なんだから!!」
梶原の、「俺の彼女」という言葉に、一瞬息が止まってしまった。え……っ、と梶原の顔を見ると、はっと気付いたようで、
「だ、だってそうだろ! 一応、ピーロ好きの彼女のお前が俺を連れまわしてる、って設定なんだから……」
としどろもどろ応えた。まあそうだよな。それ以外に鳴海にこの衣装を勧める理由がないよな。ちょっと気にしすぎてしまった。ホントは梶原がこの衣装を着て欲しいのは、きっと由佳だ。
「しゃーない、着替えるわ……。ちょっと待ってて」
おう、という返事を聞きながら、衣装をもってバスルームに入る。洗面台の横にあるきれいな脱衣籠の中に衣装を置いて、じっと眺める。
(いや……、似合わないって、これ……)
最初のデートで梶原に私服を酷評されて以来、少しずつ衣服を揃えたけど、流石にこんな色の物は持たなかった。色味を合わせることも苦手で、持ち物が示す通りグレー系が多かった。あまりに制反対すぎる。
「……はあ……」
ため息が出ても許して欲しい。これを着て梶原の横に立ったら、ますます由佳との差を感じてしまいそうだ。それでも役割として着ないわけにはいかず、鳴海はピンクのフリフリ衣装のボタンを外した。