「御堂大学に入りたい、ですって?」
「いいや、俺はそこまでじゃないんだけど。アレンがアカネに頼めってうるさくてさ。それで実際のところどうなんだ。入ろうと思えば、入れるのか?」
「無理、ということはありませんが……」
アカネの部屋を訪ねて、アレンからの提案を説明する。
彼女の自室は意外にもテディベアや小物が並ぶ、非常に女の子らしいところだった。ただ一点、天蓋付きのベッドは少女らしさの欠片もなかったが。
そんなベッドに腰かけて、アカネは考え込む。
俺はその隣に座り、彼女の答えを静かに待つことにした。
「そうですわね。条件を出すとしましょう」
「条件……?」
そうしていると、不意に少女はそう口にする。
俺はどういうことか分からず、首を傾げることになった。が――。
「おわっぷ!?」
その時である。
俺はアカネにベッドへと押し倒された。
そのまま馬乗りになった少女は、口元にどこか熱っぽい笑みを浮かべる。
「あのー、アカネさん? これはどういう――」
「条件ですわ。ミコト、貴方はわたくしの物になりなさい?」
「…………なんですと?」
そして、そんなことを仰った。
そこで俺の思考は凍り付き、身動きを取れなくなってしまう。
「抵抗しないのでしたら、続けますけれど?」
「いや、それは困るな……」
ボンヤリとしていると、アカネはそう言った。
苦笑しつつ何とかそう返すと、彼女は少し残念そうにこう口にする。
「まぁ、いいですわ。でも、わたくしの物になる、というのは絶対条件ですわよ。具体的に言えば、そう――家にいる間は、専属の執事になっていただきます」
そして、出てきた言葉は意外なもの。
俺はあまりに想定外のそれに、思わず間の抜けた声を上げた。
「……へ、執事?」
「そうですわよ。なにか不服がありますの?」
「いや、そうでなくて……」
そこでついつい、頬を掻きながらこう言ってしまう。
「てっきり、今みたいな相手をしろ、的なのかと」――と。
瞬間、部屋の中には沈黙が生まれた。
アカネは目を丸くして、今の俺たちの体勢やらなにやらを確認。
そして、瞬きを何度も繰り返した後に、顔を真っ赤にして――。
「ふ、不潔ですわ――――――――――っ!!」
「べぷらっ!?」
――ベチコーン!!
俺の頬を全力で引っ叩いた。
視界に星がいくつも、ちかちかと……。
「ふふふふ、不潔です! ななな、なにを仰っているのかしら!?」
「いや、流れからして……」
「ふえぇっ!?」
こちらの指摘に、アカネはさらに怖気づいたような声を発する。
先ほどまでの威勢はどこへやら。
「と、とりあえず!! ――ミコトは大学へ通う四年間は、わたくしの執事になるのですわ! いいですわね!?」
涙目になりながら、そんなことを言うのだった。
「分かったよ、ありがとうな」
「わ、分かったなら良いのですわ!」
答えると彼女は俺を解放する。
起き上がり、再び並んでベッドに腰かける形になった。
少しの間を置いてから俺はふと、アカネに対しての疑問を口にする。
「そういえば、どうして俺にそんなによくしてくれるんだ?」――と。
それは、かねてよりの謎だった。
初めて会ったのは、つい先日のはず。それだというのに、アカネは命懸けで俺の考えた作戦にも参加してくれた。どうして、彼女はそこまでして――。
「良いのですわ。貴方が、憶えていなくても」
「え……?」
考えていると、アカネは小さな声でそう漏らした。
そして、呆ける俺に向かって明るい笑みを浮かべてこう言うのだ。
「わたくしは、恩に報いているだけですわよ?」――と。
そこには、どこか寂しげな色も浮かんでいた。