赤羽と行動を共にしていると分かったのは、彼女の寿命はとても簡単に変化する、ということだった。例えば母親とはぐれて泣いている子供に話しかけたら、数分だけだったがそれが伸びたりする。しかし何かの拍子に笑うと、直後にはその数分を大幅に超える時間が削れていた。

 とても容易く運命が、特に悪い方へ変わる女の子。
 赤羽ミレイは、そういう意味では幸薄い少女なのだとそう言えた。

「………………」

 美人薄命、とは言うけれども。
 これはあまりに可哀想だと、そう思われた。
 同情なのかもしれない。しかし、俺は間違いなく赤羽に惚れていた。一目見た瞬間から、この子は俺にとっての天使なのだと、そう確信したのだ。
 だとしたら、彼女を守ろうとすることに理由なんて要らなかった。

「……坂上くん?」
「え、あ……ごめん。少し、ぼーっとしてた」

 そんな決意を改めて固めていると、少女がこちらの顔を覗きこんできた。
 俺はほんの少し驚くけど、さっきまでの緊張はない。

「なんの話、だったかな? 赤羽さん」

 ベンチに腰をかけた俺たち。
 右隣に座る赤羽に、そう訊き返した。

「坂上くんの、ご家族のお話ですよ?」
「あぁ、そっか。そうだったね」

 すると返ってきたのは、そんな言葉。
 彼女はまた、くすりと笑ってから興味深そうにこちらを見た。

「……でも、こんな話しても楽しくなくない? 大丈夫なのかな」

 俺は幸せそうな赤羽の反応に、変な不安を覚える。
 だから、そう問いかけた。

「そんなこと、ないです……。ご両親がいて、妹さんがいて。4人で幸せな暮らしをして、それで毎日が平凡に過ぎていくなんて。素晴らしいに決まってます」
「赤羽さん……?」

 すると、彼女はやや悲しげな表情を浮かべてそう口にする。
 俺が首を傾げると自分の声色に気付いたのか、赤羽は慌ててこう続けた。

「あ……! い、いえ。私のお父さんは、毎日お仕事で出かけてますし。お母さんは――私が産まれた時に亡くなってしまったので、いいなぁ……って」

 うつむき加減になって。
 そんな、悲しい境遇を微笑みながら語るのだった。

「転校ばかりで、友達も少ないですし。だから、坂上くんに誘っていただいて……とても嬉しかったです」
「赤羽、さん……」

 最後に、赤羽は自嘲気味に笑った。
 コロコロと変わるその表情も、すべてが悲しい変化ばかり。
 俺はそんな彼女の顔を見て、話を聞いて、拳を強く握りしめた。そして、

「だったら、この街でたくさん友達を作ると良いよ! 俺の家に飯を食いにきても良いし、今まで大変だった分だけ楽しんで暮らしていこう!!」

 そう、自然とその小さな手を取って口にしていた。
 これは一目惚れなんかではない。そんな、一時の感情ではなかった。
 俺はいま、この女の子の力になりたい、幸せにしてあげたいと心から思っていた。だから、真っすぐに蒼色のその瞳を見つめる。

「坂上、くん……」
「もう水臭いよ! 俺らはもう友達だ! 下の名前でいいよ、ミレイ!」

 ニッと笑って、そう言うと彼女は声を震わせて言った。


「……ありがとう。ミコト、くん」


 柔らかく、そして優しく。
 俺が好きになったその笑みを、もう一度見せてくれたのだった。


◆◇◆


 そして、その時がやってきた。
 彼女の寿命が尽きる、その間近だ。
 俺はあえて、彼女を近くの空き地へと誘った。

「どう? 昔はここで親父とキャッチボールとかしたんだよ」
「そうなんですね……」

 そんな雑談を交えながら、俺は周囲に注意を払う。
 見晴らしが良いこの場所なら、と。そう考えたのだった。
 車が突っ込んでくるか? それとも、もっと他のなにかか? ――少なくとも、これだけ分かりやすい場所にいれば対応できるはず。

「風が気持ちいいですね……」
「あぁ、そう――」

 そして、不意にミレイが髪を撫でてそう言った。
 その時だ。異変に気付いたのは。





「――――――――!?」





 その瞬間に、俺は彼女を突き飛ばした。
 突然のことに、抵抗することもできずに地面に転がったミレイ。


 短い悲鳴。
 でも、そんなものよりも……。


 チュインッ!


 目の前を、鋭い風切り音と共に通り過ぎていったなにか。
 それに俺は慄いていた。

「う、そ……だろ? はは……」


 見えたのだ。
 ミレイの額に、赤いレーザーの点が。
 その直後のこと。つまり、今のは――。



「馬鹿じゃねぇの? ここ、日本だぜ……?」



 ――間違いなく、銃撃だった。