――日本の高校を海外マフィアが占拠。
このニュースは、世間を大きく賑わせることになった。テレビでは連日のようにこれを取り上げていたし、フランスの『イ・リーガル』とはどんな組織で、目的はなにか。有識者が見当違いな話をしているのは、ある種でどんなバラエティーよりも面白かった。
だが、それと同時に取り上げられるのは――俺のこと。
事件当日から行方不明となった男子高校生。マスコミは俺の家を囲んで、家族から事情を聞き出そうとしていた。泣き崩れる海晴に、両親。
その姿に胸は痛んだが、それでももう戻ることは出来なかった。
迷惑をかけている。
それでも、これが俺の選んだ道なのだから……。
「俺の家族には、被害が及ばないようにしてくれたか?」
「あぁ、当然な。これはオレの義務の一つだ」
「そっか、ありがとう――アレン」
俺はとある一室の窓際に立つアレンに訊ねた。
すると彼は、すぐにそう頷いてくれる。感謝しかなかった。
せめて海晴たちは『イ・リーガル』と無関係であってほしい、と。それが日本の学生であった俺の、最後の願いだった。
もっとも、海晴は俺がどうなったかに感付いてそうだが。
寿命を見る限りは、無理をすることはなさそうだ。
「それで、兄弟――お前の寿命について、だが」
「あぁ、あと1週間だよ。それまでに、一連の事件に決着をつけないとな」
なんてことない、と。
そう思って答えたのだが、アレンは少し沈んだ表情になった。そして、
「……オレは、お前と出会えてよかったと思っている」
静かに、そう口にする。
その言葉は本心からのものだろう。
今にも泣き出しそうなアレンの声に、俺は――。
「ありがとうな、兄弟」
ただただ、感謝を込めて。
「さて。それじゃ、もうそろそろ作戦を決行しますか!」
俺は勢いよくソファーから立ち上がった。
ここからは、本当に一か八かの選択が続く修羅の道。
そのことを理解しているからだろう。アレンは最後にこう訊いてきた。
「ミレイお嬢様には、なにも伝えないのか?」――と。
それは、微かに俺の胸を揺さぶる。
しかし小さく微笑んで、こう伝えるのだった。
「大丈夫。この気持ちは『最期』まで――」
――胸の中に、仕舞っておくから。
「さぁ、行こう!」
俺はあえて、それを呑み込んで歩き出した。