「ど、どういうことだよ……」

 週末、俺はゲッソリとショッピングモールへやってきていた。
 初めて赤羽を救った日から、数日が経過。しかし、その翌日にも赤羽の寿命は極端に短くなっていた。それが指し示した日付というのが、今日である。
 日曜の夕方に、赤羽ミレイは死ぬことになっていた。

 そのため、俺は思い切ることにした。
 死なせたくないのなら、もういっそ自分の監視下に置くようにしておけばいい。
 そんなわけで、俺は赤羽に告げたのだった。

『今度の日曜、俺とデートしてくれないか?』――と。

 ――いや、さ。
 こういうのって、もうちょっと先のイベントじゃないの。
 なんで俺は、出会って数日の女の子をデートに誘ってるのさ。そんなキャラじゃないよ、その場で聞いてたクラスメイトもポカンとしてたよ。
 でも、もっと衝撃を与えたのは赤羽の反応だった。

『…………はい』

 頬を赤らめて、口元を隠しながらそう言って視線を逸らしたのである。
 まさかの一発OKという珍事だった。

 はてさて、そんなわけで俺は生涯初のイベントに挑もうとしている。
 女の子(しかも美少女)とのデートだ。浮き足立つのを必死にこらえながら、しかしどうしても胸躍ってしまう。そして、同時に緊張で汗が止まらなかった。
 でもそこで、もう一度しっかりと気持ちを切り替える。

「いいや。今日の一番の目的は、赤羽の命を救うことだ」

 そうだった。
 もはや順序が分からなくなっていたが、それだけは大切なことだ。
 優先するべきは、その時間までに赤羽の寿命を決定付ける原因を突き止めて、排除すること。それが不可能だったら、先日のようにギリギリにでも回避することだった。なるべく、そうはなりたくないけど……。

「ふー……!」

 俺は大きく息をついて、胸の鼓動に静まるよう言い聞かせる。
 その時だった。

「あの、坂上くん? ……こんにちは」

 彼女の声が聞こえたのは。

「ん、赤羽か――」

 俺は鈴の音のような声のした方へと視線をやる。
 すると、そこに立っていたのは……。



 リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン……!



 またもや、教会の鐘が聞こえた。
 俺は言葉を失って、その場に立ち尽くす。

「あの、変じゃないかな……?」

 赤羽はそう言った。
 身に着けているのは真っ白なワンピース。
 もうね、清楚。清楚オブ清楚’sって感じだった。
 小物入れも愛らしいデザインで、しかし過度に主張しない。



 こんなん、可愛すぎるでしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?



 俺は思わず、その場でうずくまる。
 いかん。頭が沸騰して、まともに赤羽の顔を見れない。

「だ、大丈夫ですか……?」

 そんな俺を心配したのか、彼女は近寄ってしゃがみ込む。
 ふわりと香ったのは、石鹸のそれ。

「だい、りょう、びゅ……」

 俺は舌足らずな返答をした。
 ふらふらと立ち上がり、頬が熱くなるのを堪える。

「それじゃ、い……行こうか」

 そして、ぎこちなく続けるのだった。
 すると赤羽は――。


「……はい!」


 そう言って笑う。
 そんな感じで、俺の人生初デートは幕を上げた。