「そんなバカな話って、あるかよ……!」

 俺は思わずそう叫んでいた。
 こんな状況は想定外で、どうしようもなかった。
 爆弾を発見した時点で今回も乗り越えたと、そう確信していたが、そうではない。むしろそこまでがスタートラインで、終わりの始まりだった。

「くっ……八方ふさがり、というやつか」
「そんな話じゃねぇよ、アレン。こいつら――」

 アレンの漏らした声に、俺は少しだけ声を震わせる。
 そして、こう口にするのだった。


「自分たちの命さえ、犠牲にしようとしやがってる」


 姿を現した『イ・リーガル』の反体制派。
 彼らの寿命もまた、俺たちと同じ時を示していた。


◆◇◆


 拘束されながらも、俺は深呼吸をして状況を判断する。
 この場にいる全員の命が尽き果てるまで、残り――――2時間。
 反体制派の全員が武装しているのに対して、こちらはほぼほぼ丸腰の状態だった。俺が持つ護身用のナイフが2本と、拳銃が一丁。
 相手も学生が武器を持っているとは思っていなかったのか、それらは見つからずに済んだ。しかし、後ろで手を縛られた現状ではどうしようもない。

「考えろ。思考を、止めるな――」

 長く息を吐き出して、目を細める。
 この状況でなにかを行動を起こすことは、確実に悪手だった。下手を打てばその場で銃殺――最悪の場合、タイムリミット前に皆殺し。
 それでも、行動を起こさなければジリ貧だ。
 つまり俺はここで、数少ない正解の行動1つのみを取らなければならない。

「――兄弟。少しだけ、訊きたいことがある」
「どうした、アレン」

 そう考えていた最中だった。
 隣に座るアレンが、おもむろにそう訊いてくる。
 訊き返すと彼は、俺以外の誰にも聞こえない声量でこう言った。

「どうしてお前は、あの集団が命を懸けていると考えた?」
「……………………」

 それは、俺の先ほどの発言について。
 さっき思わず口にしたことを、アレンは気に留めていたらしい。

「ここに爆弾を仕掛けたのは、アイツらだと――そう思ったからだ」

 しかし、俺は真偽を告げずにそうはぐらかした。
 この状況ではあるが、アレンが『裏切り者』である可能性がなくなったわけではない。それに加えて、俺の力は説明しても信じられない類のそれだった。
 そう思って、口を噤む。しかし彼は納得していない様子で――。

「いいや。お前がその程度の推測で、あのように取り乱すとは思えない」
「それは俺のことを買い被りすぎだ。普通の高校生だぞ、俺は」
「お前みたいな学生がいるか。なにか、あるのだろう?」
「……………………」

 そう、静かに問いかけてくる。
 無言を貫くと、彼は小さくふっと笑い、こう言った。

「聞かせてほしい。ミコト、お前の見ているものをな……」

 一度、言葉を切り。




「同じ女を愛する男として、な」――と。




 それを聞いて、俺はハッとした。
 驚いてアレンの顔を見ると、冷や汗をかきながらも口元には笑みを浮かべている。やや緊張感をもった呼吸に、サングラス越しの瞳には、嘘を感じられなかった。
 その眼差しは反対側で気を失う――ミレイに向けられている。

「アレン、お前……」
「さて、兄弟。ここから先は大きな賭けになるかもしれない」

 彼は、声のトーンを落として言った。

「乗るか、はたまた乗らないか。――どっちを選ぶ?」

 まるで俺のことを試すかのように。
 それを耳にして、俺は自然と笑みを浮かべていた。そして、迷いなく――。


「今さら、そんな賭け――屁でもないさ」


 その波に乗ってやることにした。