俺たちの寿命は学園祭の当日、その終わり頃だった。
 なにが起きるのかは予想もつかないけれども、ただ一つ確信をもって言えることがある。それは『イ・リーガル』の反体制派が関与している、ということだった。
 最初は災害関係の線も疑いはしたが、他のクラスの生徒などの寿命は変化していない。そうとなれば、やはり組織が動いている可能性が高い。

 それが、俺の導き出した答えだった。

「それとなると、警戒するのは――」

 俺は寿命の変化を確認したその日から、行動を開始した。
 なにかと問われれば、監視だ。誰を監視するのか、と問われれば――。

「やっぱり、アレンだよな」

 ダースの可能性が低くなった以上、アレンを見張るというのが普通だろう。
 そんなわけで俺は彼の動向を追っていた。だが、しかし……。

「結局、不審なところは今日までなかったか……」

 学園祭の当日を迎えるまで、アレンが怪しい行動を取ることはなかった。
 もしかしたら、今回のことには関係ないのかもしれない。
 そう思い始めた時だった。



「それじゃ、行ってくるよ」
「行ってきますね、アレン」

 俺はいつも通り、公園でミレイのことを預かる。
 適当に言葉を交わして、その場を後にしようとした。すると、

「……待て、ミコト」
「ん……?」

 突然に呼び止められる。
 振り返ると、アレンはどこか考え込むようにしていた。
 その姿に思わず首を傾げてしまう。いったい、どうしたのだろうか。普段ならばこのように声をかけてくることはなかった。
 もしかしたら、俺たちの寿命について、有益な情報だろうか。
 そんな期待が僅かに生まれた時だった。


「学園祭、オレも行くからな」


 ピリッとした緊張が、肌を刺す。
 そして直後に、目を疑う結果となった。

「アレンじゃ、ないのか……?」

 震えた声で、俺はそう呟く。
 それが分かった理由は、一つしかなかった。
 アレンの頭上にある数字が、俺たちのそれと同じ時刻に切り替わったのだから。


◆◇◆


「だとしたら、誰なんだ……?」

 学園祭開催直前、俺は1人でポツリとそう漏らした。
 最後の最後、書類関係の処理を行っているのだが頭に入ってこない。これまでの予想と対策が、完全に水の泡となったのだから、仕方のないことだろう。

 しかしここで終わりというわけではない。
 アレンの寿命が短縮されたということ、それは彼へひとまずの信用を寄せても良い、ということを示していた。もっとも、全幅の信頼、というわけにはいかないが。それでも、自らの死を選ぶような作戦を決行するなど――ゼロではないが、可能性は低い。

 そうなってくると、今回は身内以外の行いである可能性が高かった。
 それこそ、体育祭の日に起きた事件のような。

「そういえば、あの時の男を殺したのは――口調からして、女か?」

 俺はふと思い出した。
 そういえば何かを被っているのかくぐもったそれだったが、相手は女である可能性が高かった。もっとも決めつけることは危険だが、それとなると……。

「ダースとアレンは、限りなく白に近い……か?」

 顎に手を当てて考え込む。
 そうなってくると、また色々と再考しなければならない。
 面倒なことになってきたな、と。一つ大きくため息をついた、その時だ。



「ミコトくんっ! 見てくださいっ!!」



 更衣室の方から、明るいミレイの声が聞こえてきたのは。

「ん、どうした? ミレ――」

 俺は重たくなった頭を持ち上げて、声のした方を見た。
 そして……。


「ぐはっ…………!?」



 完全にノックアウトを喰らった!
 今まで考えてきたこと、すべてが遠く彼方へホームラン!

「どうですか? 似合ってます?」
「いや、あの、うん……似合ってりゅ……」

 呂律が回らない。
 それほどまでの破壊力だった。

 だって、ミレイのミニスカメイド姿だぞ!?
 しかも猫耳付きで!!

 ふわふわなフリルをふんだんに使用したスカート。
 彼女が動くたびに、宙を舞う。

 駄目だ、上手く表現できない。
 鼻から血が出てきた……。

「えへへっ! ミコトくんには、一番にお見せしたかったのです!」
「あ、ありがとう……」

 俺はティッシュを鼻に突っ込みながら、サムズアップ。
 何はともあれ、致命傷で済んだ。仰げば尊死、とならなくてよかっ――。



「いいえ、お褒めいただき感謝なのです! ――『ご主人さま』!」



 そこからしばらく、俺の記憶はない。