「あはははははははははははははは!! 馬鹿なガキめ! あんな小娘の悲鳴ごときで隙を見せるなんて、甘ちゃんにも程がある!!」

 立ち上がったハジメは、こちらを見下ろしそう罵声を浴びせてくる。
 俺はそれを忌々しげに睨み上げた。しかし、身体に力は入らない。幸いなことに急所は外れているらしく、出血は思ったほどではなかった。
 それでも、弾が貫通したことによる痛みは恐ろしい。
 前にも喰らったことはあったが、やはり意識が飛びそうになる。

「ぐっ……!?」

 だが、ここで気を失うわけにはいかない。
 諦めたらすべてが終わりだった。だから俺は唇を噛み、目を見開く。
 口の中に鉄の味が広がった。心臓は早鐘のように脈打ち、呼吸はそれに応えるように上がっていく。それでも思考は止めなかった。

 相手は拳銃を持っているが、たった1人だ。
 慢心か油断、はたまたその両方か。部下を引き連れている様子はなかった。
 だがしかし状況は圧倒的に不利。傷だらけのアレンは、ミレイに銃口を向けられていることで動けなくなっていた。アカネは――ついに気を失ったか。

 俺は身動ぎ一つに相当な体力を使う。
 少しでもなにかをすれば、意識が飛んでしまいそうだった。

「まだだ、考えろ――!」

 絶望的な状況。
 その中で俺が選んだのは――。


「アレン、受け取れ!!」
「ミコト……!?」


 先ほど、黒服から奪った拳銃をアレンの方へと転がすこと。
 これがまずは最善の第一手。そして、次に起こり得る可能性に備えて――。


「ぐ……う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
「ミコトくん……!?」


 想像を絶する痛みに、眉をしかめながらミレイの方へと駆けた。
 すると、ハジメはやや慌てて行動を開始する。
 それはミレイへの銃撃――!

「死ねぇ――――っ!」

 ダン、という音。
 その直後に、俺は背中に激痛を感じた。
 覚悟はしていたものの、これはかなり、きつい……。

「ミコトくん、ミコトくん……!!」

 倒れ込む俺を支えるようになったミレイ。
 彼女は涙声になりながら、俺の名前を繰り返していた。
 遠退く意識。その中で最後に見たのは、愛しい女の子の泣き顔だった。

「は――馬鹿め、これで……!」
「御堂ハジメ、これで終わりだ」

 後方で、そんな声がする。
 アレンだろう。彼はハジメを――。



 一発の銃声。



 それを耳にして、俺の意識はプツリと途切れた。