「コスプレショップだったのか、ここ……」

 俺はようやく周囲を確認して、そう漏らした。
 並んでいるのはどれも、有名なアニメの制服や戦闘服などのコスチューム。
 ぶっちゃけ俺にとっても幸せな空間。だが、意外なのはまさかミレイが……。

「……ミレイ、アニメとか好きなの?」
「あ、あの……その!」

 有名なロボットアニメ、そのツンデレヒロインの戦闘服を着ながら小さくなるミレイさん。着ている服こそ同じだが、性格は正反対の少女がそこに。
 店に置いてあったソファー、その対面に座ったミレイは顔を真っ赤にしていた。
 するとそんな状況を見て一人、苛立つ人物がいる。

「お前、お嬢様を愚弄しているのか?」

 それは護衛の男性――アレン。
 彼はこういった趣向はないのか、とかく居辛そうにしていた。
 しかし大切なお嬢様のためか、鬼のような表情を浮かべている。俺はそんな彼に笑いかけながら、こう答えるのだった。

「あー、大丈夫。ノープロブレム。自分もアニメとか好きだから!」

 そう、実は俺はヲタなのだ。
 とはいっても、割とライトな層ではあると思ってる。
 ソシャゲの課金は隔月で20000円。好きなラノベは厳選して、アニメのグッズが出る時はそちらを優先しているし、結構考えている方だと思えた。

「む……そう、なのか?」
「そうそう。だから、なに? いわゆるフレンズっての? そんな感じ!」

 重苦しい表情を変えないアレンに、俺は軽妙な口調で語りかける。
 すると徐々にだが、彼も警戒を解いてくれたようだった。

「とりあえず、お前はお嬢様の敵ではない――それは分かった」

 ふっと息をつき、サングラスを外す。
 現われたのは何とも、ムカつくほどに綺麗な顔だった。
 キリッとした金の眼差し。眉間に傷跡があったが、それもまた逞しさを感じさせた。まさしく美男というやつだ。イケメンだ。
 若干のジェラシーを抱いたが、俺はすぐに気持ちを切り替える。

「そうそう。とりあえず、銃からは手を離して、な?」
「………………」
「無言!?」

 苦笑いしながらツッコみを入れてしまった。
 どうやら、このアレンという男はなかなかの堅物らしい。
 俺は仕方なしにミレイの方へと向き直った。そして、寿命を確認する。

「あと、30分」

 小声でそう呟いて、息をついた。
 そうなってくるともう、逃げたりする時間はない。
 何度も言うが『寿命が見える』などという世迷言は、聞いてもらえない。

「だったら――」

 どうにか集中して、アレンと一緒に危機を切り抜けるしかない。
 そう思った時だった。

「誰だ――!」
「え!?」

 彼が叫び、入口に銃口を向けたのは。
 予定の時間よりも圧倒的に早い。そのことに困惑していると、




「な……!?」




 視線をアレンと同じ方向に向けた時、息を呑んだ。
 そこにいたのは、海晴だった。



「どう、して……?」



 だけれども。
 俺が驚愕したのは、それだけじゃない。
 海晴が泣きじゃくった顔で手にしていたのは――。



「お、お兄ちゃん……!」


 震え声で、俺を呼ぶ。
 彼女の手には、一つの銃が握られていた。