突然だけど、人の寿命が見えるようになった。

「なにコレ、2098年4月7日21:56――って」

 それに気付いたのは、とある朝のこと。
 鏡の前で寝癖を直していると、頭の上に浮かんでいた。
 平凡を絵に描いたような高校生の俺こと、坂上命(さかがみ みこと)。当然ながら呆然としている。寝惚けているのでは、と思って何度か目をこすってみた。

「……消えないな」

 でも、それは消えてくれない。
 というか、ちょこっとだけ数字が変わった。

「ん、4月8日になってる。どういうこと?」

 俺はボンヤリとした頭で考える。
 しかし、答えは出てこないわけで……。

「ちょっと、お兄ちゃん? いつまで鏡使うの~?」
「あぁ、悪い。……海晴(みはる)は俺の3年後、か」

 そうこうしていると、妹の海晴が頬を膨らせながらやってきた。彼女もまだその長い黒髪に寝癖を残しており、愛らしいくりっとした瞳は欠伸によって潤んでいる。
 そんな妹の頭上にも数字が浮かんでいた。
 2101年の某日。

「……何言ってるの? 頭でも打った?」
「そうかもしれない」
「そうなの?」

 もう何が何だか分からないので、俺は適当に髪に水を付けて洗面所を後にした。
 リビングに向かって、テレビの電源をつける。すると、ニュースでは近所で起こった事故のことを報道していた。

「あー……、昨日の夜に騒いでたのはコレか」

 母さんが用意していた食パンを齧りながら、それを眺める。
 当然ながら、アナウンサーさんの頭の上にも数字が浮かんでいた。しかし、それを見た直後のことだ。
 画面が切り替わり、被害者であるお婆さんの写真が映った時に理解した。
 この数字の意味を……。

「昨日の、夜だ……」

 お婆さんの上に書いてあった数字。
 それが、事故の発生時間と符合していた。

「これって、え……マジで?」

 俺は手に持っていたパンを落としてしまう。

 もう一回、言っておこう。
 どうやら俺は、人の寿命が見えるようになったらしい、と。