恥ずかしい話、エル=ポワレという町には、どこか排他的な印象があった。プライドの高い魔術師が最先端技術を鼻にかけている。そんな勝手なイメージを、俺が抱いていたことは否定のしようもない。しかし、俺が想像していたよりもずっと、『魔術師の町』の懐は深かったようだ。彼ら魔術師たちは、なによりも魔法を、その技術の発展を、心から楽しんでいる。モノは違えども、ソラリオンで、街の発展を楽しむ俺たちと同じだ。きっと、ソラリオンとエル=ポワレの関係は、今後もっと深いものになっていくだろう。俺はそう確信し、最後にもう一度お礼を述べて、エル=ポワレ魔法学校を後にした。
***
エル=ポワレで出される食事は簡素だったけれど、お菓子とお茶に関しては非常に充実していた。エルダーリッチのティータイム好きが反映されているのかもしれない。
「今日は、大図書館に行ってみないか?」
パンツの一件以来、およそ丸二日ぶりに口をきいてくれたエルダーリッチの提案だ。この町で得られる知識や発見には目を見張るものがある。昨日のこともあり、正直かなり魅力的な提案だった。大図書館はエル=ポワレの知恵の中枢。本来なら町の住人以外は出入りを許されない。しかし《門》でエルダーリッチの書庫に戻り、彼女が書いた適当な一冊を寄付すると、喜んで迎えられた。
喜んで――といっても、司書長さんはあまり良い顔をしていなかったけれど。
その本と一緒に、あの宮廷魔術師グルーエルが持っていた『紫の書』も持っていった。
もとはこの大図書館の奥底に封印されていた禁書だったのだが、王国の軍事力を背景に、グルーエルが強引に奪い取ったものらしかった。
「返却期限はとっくに過ぎてますよ」
キーラさんの三倍くらい神経質そうな司書長さんは『紫の書』を手に取って、フンと鼻を鳴らした。
「しかし、よくこれだけ集めたものだ」
エルダーリッチの視線を追って、俺たちは大図書館の中を眺めた。
大きさはソラリオンの百貨店の五倍くらいだろうか。目も眩むような、高い吹き抜けになっていて、その天井までずっと本棚が続いている。利用者はそれなりにいるのだけれど、大図書館のあまりの広さに、どこか閑散とした印象を受ける。
窓がないのは、本を保護するためだろう。照明は宙に浮かぶシャンデリアで、読書に最適な明かりが保たれていた。
手の届かないようなところに置かれた本は飾りなのか、というとそうではない。利用者は浮遊魔法をかけられた踏み台に乗って、高い所まで自由に移動していた。ずらりと並ぶ読書机では、老若男女が読書や勉強に励んでいる。机の上には注意書き。