赤熱した鉄を、見えないハンマーが叩く。カァン、カァンという音が鍛冶場に響きわたる。鉄が引き延ばされ、折り畳まれ、再び引き延ばされる。それを何度も繰り返し、俺は見えないハンマーでそれを直方体に成形する。

「これで、インゴットの完成です。ここから剣を造りますね」

 直方体が、ぐうんと引き延ばされる。これはミスリルと違って鉄だから、炭素の量が硬度と靱性を決める。硬度が高ければ変形しにくいが、衝撃には弱くなる。靱性が高ければ衝撃に強くなるが、変形しやすくなる。

 折れず、曲がらず、よく切れる剣を造りたい。

 そのためには、芯の靱性を高め、刃には硬度をもたせなくてはならない。一本の剣であっても、内部の鉄の性質が同じではダメなのだ。

 かつての俺では、そこまで精密な操作はできなかったかもしれない。

「ここからは、この鉄に含まれる炭素を表面に移動させながら加工します……ここからは、ちょっと話してる余裕はないかもしれません」

 インゴットを、ぐうっと引き延ばされる。刃渡りは四十センチ程度がいいだろう。そして炭素の移動――これはミスリルの剣を造ったときよりも、遙かに集中力が要求される。

 通常の加工のしやすさと、錬金術を用いた加工のしやすさは、また別らしい。

 無意識に、日本刀の展覧会を観に行った思い出がよみがえる。刃が、わずかに沿っていく。銀色の波のような刃文が表れる。

 職人たちから、ため息が漏れた。

「金属加工はここまでです。ここから拵えを造りますね」

 俺は壁に立てかけられている薪を手に取った。《分解》で繊維状になった木を、《構築》で柄と鞘の形に固く圧縮する。空中で、茎に柄がはまり、目釘で固定される。

 するう、と刀が鞘に収まり、作業台に着地する。俺はやっと、汗を拭った。

「これで、完成です」

 わあっと歓声が上がった。

「すげえな! これが錬金術か!」

「触っても構わねえかい?」

「大丈夫ですよ」

 職人のひとりが鞘を手に取り、刀を抜いた。

「こいつは……芸術品だぜ」

 輝く刃を見つめながら、職人は言った。

「もちろん、こりゃ見かけ倒しじゃねえ。俺にはわかる。とんでもねえ業物だ」

 職人はしばらく刃を眺めたあと、刀を鞘に収めた。

「試し斬りを、見せちゃくれねえかな。なにも出来映えを疑ってるわけじゃねえんだ。ただ、その剣がどれほどのもんかを見てみてえ」

「わかりました」

 俺は太い薪を、一本手に取った。職人たちがざわめく。

「そんな太い木をあんた、そりゃ無茶だぜ」

「わかるんです。これは俺にとっても、会心の出来だ」

 薪を宙に放り投げる。

《阿修羅》