「……ふぅ。やっと執筆終わった……」

 暖房が稼働(かどう)する音だけが鳴り響く自室で、何時間ぶりに他の音が鳴ったのだろうか。

 僕は集中していて気が付かなかったけど、ベッドの側に置かれている目覚まし時計は十一の場所に短い針が指しているから、きっと二、三時間近くは執筆していたのだろう。

 イヤホン越しに耳へ絶えず流れてくる好きなバンドの曲を一時停止させ、やっとこの物語を完成させたことへの安堵感や使命感、そして後悔が一気に溢れてきたことに涙がでそうになってきた。

 これで、やっと、全てを過去のものにできる。忘れるんじゃない、未来の自分に投資するんだと。

 忘れたくても、忘れられない過去がある。消したくても消せない傷跡がある。壊れたものは直せないから、なんとかこれ以上失わない努力をしてここまで、やってきた。

 アイツを傷つけてから、三年。

 あの子を悲しませてから、二年。

 高校一年生も、もう終わろうとしている中で、僕はあの物語には、まだ書きたいことがあった。

 まだ、中学生の時間が心にある間に書いておきたいことがあった。

 今から一年前に時間を戻すが、これはまだ、僕がこんなに明るくなっていなかった頃の、プロローグにも満たない物語だ。

 スマホの執筆画面には、こう書いてあった。

「青春は、始まったばかり。次あなたたちに会えるときは泣いて喜ぼう。──春の訪れと共に」