車を無事にマンションの駐車場に停めると、那央くんの震えは少し落ち着いた。

「タオルこれ使って。ココア飲む?」
「うん」
「ちょっと座って待ってて」

 玄関で傘を借りたらすぐに帰ろうと思っていたのに、那央くんは「落ち着いたら送っていくから」と、わたしを部屋にあげてくれた。

 1LDKの間取りの広い部屋は、物が少なくて綺麗に整頓されている。壁際に置かれた本棚には、わたしが絶対手に取らないような化学の本や参考書がずらっと並べられていて、入りきらないものは、本を立てた上の隙間にまで詰め込まれている。物が少ない部屋の中で、本棚が一番ゴミゴミして見えた。

 うちの高校の非常勤講師になるまではずっと大学の研究室にいたみたいだし。元々は研究が本業だったんだろう。

 那央くんに借りたタオルで雨に濡れた髪を拭きながら、ぼんやりと本棚を眺めていると、ふと、あるものに目が止まる。

 難しい本しか並べられていないと思っていた本棚の隅っこで、木製の写真立てが裏向けになって倒れていたのだ。

 那央くんがワザと倒したのか、それとも自然に倒れてしまったのか。気になって、写真立てを起こすと、那央くんと彼女が二人で写した写真が入っていた。