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わたしが家族として受け入れられるようになったら帰ってくると言った健吾くんは、家を出て行ったまま本当に戻らなかった。
どこかのビジネスホテルに滞在していて、母とだけは毎日連絡を取り合っているみたいだ。
健吾くんは、誕生日の夜のわたしの告白のことを母には黙ってくれているらしい。何も知らない母は、わたしと顔を合わすたびに「いつも仲良かったのに、何が原因でケンカしたの?」と、不思議そうに訊いてくる。
たまたまわたしの休みと母の休日が重なった日曜日。なんとなく家にいるのは気まずくて、わたしはひとりで買い物に出た。
よく行くショッピングモールをブラついて夏用のTシャツと可愛いアクセサリーを手に入れたあとは、自宅の最寄りを二駅乗り過ごして、DVDのレンタルショップに立ち寄る。
見たかった新作映画のレンタルが先週から始まっているのだが、うちの最寄にはレンタルショップがない。一番近いのが、那央くんの家の最寄にあるこの店だった。
来たついでに、CDや旧作DVDコーナーをゆっくり見て回る。最近気になっていたバンドのアルバムと、目当ての映画のDVDを借りて店を出ると、タイミング悪く、パラパラと夕立が降り始めた。雨が降るなんて知らなかったから、傘を持っていない。
駅はレンタルショップの目の前なのだが、あいだに大きな道路を一本挟んでいて、雨に濡れずに駅まで行くのは不可能だ。
わたしは買い物袋が濡れないように腕の中にぎゅっと抱きしめると、車が来ていないのを十分に確かめてから、走って道路を渡った。