『消えろ、淫乱』
さっきとは違う別のアカウントから、また嫌がらせのDMが送られてくる。
淫乱どころか、わたし、まだそういう経験ないんだけど。苦笑いを浮かべながら、またメッセージを削除する。
こういう嫌がらせが送られてくるのは、昨年度までわたしの通う高校で働いていた桜田先生がそれなりに人気教師だったからだ。
30歳になったばかりの彼は、垂れ目で童顔で、笑うと可愛いし。教え方も上手いと生徒たちから評判がよかった。
女子生徒たちの中には、本気で彼に憧れを抱いていた子もいたと思う。実際に、彼は女子生徒からラブレターをもらったり、告白を受けたこともあったみたいだし、毎年バレンタインデーには、カバンから溢れるほどのチョコを持ち帰っていた。
だから、学校に広まった写真やウワサのせいで、桜田先生に憧れていた女子生徒からのやっかみを買ったとしてもムリはない。
ため息を吐きながら、スマホをカバンに入れようとすると、またDMを受信した。どうせ嫌がらせだろうな。
『桜田先生が、お前なんか本気で相手にするわけない』
DMを開くと同時に目に飛び込んできた文面を見つめて、唇を歪める。
どんな悪口を言われたって構わないけれど、こういう指摘がいちばん胸に堪える。
「そんなこと、わたしが一番よくわかってるよ」
一方的に責めてくる、顔の見えない相手に向かって言葉をぶつける。
一緒にいるところを隠し撮りされた桜田先生は、もちろん恋人なんかじゃない。
うちの高校の元数学教師だった彼は、わたしの母の再婚相手。わたしにとって、義理の父にあたる人だ。