スマホでインターネットの動画サイトを見ながら時間を潰したあと、ハンバーガーショップを出る。店に入る前から降っていた雨はやむどころか、さらに激しくなっていた。

 せっかく二時間も店にいたのに、雨宿りにもならなかったな。ため息を吐きながら、ビニール傘を開く。

 そのとき、道路の向こう側から黒い傘をさした男の人がわたしに向かって駆けてきた。
 黒い傘の下から現れたのは那央くんで。想定外の遭遇に驚く。

「岩瀬、こんなとこにいたのか」
「那央くんこそ、こんなところで何してるの? ひとり?」

 きょろきょろと周囲を見渡しても、那央くんのそばに、さっきコンビニの前で見かけた清楚な雰囲気の彼女はいない。

「それはこっちのセリフだよ。少し前に桜田先輩から、お前が来てないかって連絡があった。お母さんとケンカになって家を飛び出した、って」

 那央くんが雨と汗で濡れた額を手の甲で拭う。

「もしかしてコンビニの近くまで来てるのかと思って見に行ったけど、いないし。すげー探し回ったよ」
「探してくれたの?」
「そりゃ、家飛び出して連絡取れないって聞いたら探すだろ。心配だし」

 那央くんが、肩を上下させて大きなため息を吐く。那央くんが、心配してくれたことも、探してくれたことも嬉しい。
 だけど、コンビニで見かけた彼女の存在が気になって、那央くんが来てくれたことを素直に喜べなかった。