雨に打たれながらしばらく歩いて行くと、那央くんの家の近くのコンビニが見えてくる。
お土産に飲み物でも買ってから行こうかな。少し考えていると、向こう側から黒い傘をさした男の人が速足で歩いてきた。
コンビニの前で立ち止まったその人が、少し傘を持ち上げる。その下に覗き見えたのは、那央くんの顔だった。
また、ここで出会えた。三度目の偶然に、テンションが上がる。那央くんがこちらを向いたタイミングで大きく腕を振ると、彼も傘を持っていない左手を無造作に振り上げた。
「那央く――」
嬉しくなって駆け寄ろうとして、ふと違和感に気付く。
左手をひらりと振った那央くんは、わたしではなくどこか別のところを見ていた。
那央くんが、コンビニの入り口のほうを向いて微笑む。彼の視線の先には、清楚な雰囲気の大人の女性が立っていた。
コンビニから出てきた彼女が、那央くんに駆け寄って、彼がさしている黒い傘の中に入る。那央くんを見上げて笑いかけながら、あたりまえみたいに彼の腕に触れる彼女を見て、ドクンと胸が脈打った。
そうだ、那央くんには彼女がいるんだ。
わたしが勝手に那央くんのことをたったひとりの理解者だと思い込んでいるだけで、彼にとってのわたしは、たくさんいる生徒のうちの一人に過ぎない。
それなのに、コンビニの前で那央くんを見つけて、三度目の偶然だと喜んでしまった自分が恥ずかしい。今日は、那央くんを頼れない。