マンションの外に出ると、さっきまでよりも雨が強くなっていた。傘を持って出るのを忘れたことに気付いて、仕方なく家から一番近いコンビニまで走ってビニール傘を買う。
 新品のビニール傘を持ってコンビニを出ると、これからどうしようかと考えた。母に反抗的な言葉を投げつけて家を飛び出してきた手前、すぐには家に帰れない。

 唯葉に連絡して、時間潰しに付き合ってもらおうかな。スマホを出して唯葉に電話をかけようとして、ふと思いとどまる。

 なぜか急に、昼休みにもらったツナマヨのおにぎりと那央くんの顔が頭に思い浮かんでしまったのだ。

「何かあれば、ちょっとくらいは頼っていい」という那央くんの言葉。あれはいつまで有効だろう。
 ビニール傘に落ちてくる雨を見あげながら、スマホをカバンに入れる。気付くとわたしの足は、駅に向かって歩き出していた。

 最寄駅から一駅だけ電車に乗ると、わたしはおぼろげな記憶を頼りに那央くんの家へと向かった。

 担任でもない生徒に、頻繁に押しかけてこられたら迷惑かな。そんな考えが頭を過らなくもなかったけれど、今のわたしには那央くん以外の選択肢が思いつかない。
 那央くんはわたしの家庭事情や気持ちを知っているたったひとりの相談相手だ。だけどそれ以上に、わたしはまた彼の大きな手のひらに励ましてもらいたかった。