夜勤の仕事がある母とは、もともと生活時間がズレがちだったけど、健吾くんと再婚してからはそれまで以上に母とふたりだけで話す時間が減った。

 わたしだけでなく、健吾くんとの時間も大切にしたいだろうから仕方ない。そのことでお互いにコミニュケーションが取りづらくなったせいか、再婚してからの母は、わたしのことを腫れ物みたいに扱ってくる。
 以前のようにわたしに対して感情的に怒らなくなったし、顔を合わせばわたしの機嫌を窺うような目で見てくる。

 もしかしたら母には、ずっと「弟みたいなものだ」と説明してきた健吾くんと結婚したことに少し引け目があるのかもしれない。
 この前黙って夜中に家を飛び出したときだって、怒られるどころか理由すら聞かれなかったし。思春期の娘をどう扱っていいのかわからなくて、持て余しているんだろう。

「別に、何もないよ」

 冷たい声でそう言うと、母が笑顔を引き攣らせた。わたしの言葉で、母が傷付いたのが一目でわかる。
 もっと小さな頃は、母が悲しそうな顔をするとわたしも悲しかった。でも、今のわたしは、悲しそうなお 母の顔を見ても少しも心が痛まない。いつのまに、こんなに冷たくなってしまったんだろう。

「もし何か嫌なこととか悩みがあったら、いつでも話してね。お母さんも健吾くんも、沙里の力になるから」

 お母さんも健吾くんも、力に……?

 母はわたしを最大限に気遣ったつもりなのだろうけど、わたしにとってその言葉は地雷だった。
 嫌なことも悩みも、ふたりに相談できるはずがない。だってわたしは、母と健吾くんのことで思い悩んでいるんだから。