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最寄りの駅から家まで歩いている途中に、パラパラと雨が降ってきた。走って帰って、玄関のドアを開けると、リビングから母が出てきた。
「おかえり。あら、雨に濡れたの?」
母がそう言って、洗面所からタオルを持ってきてくれる。
部屋着姿の母は、少し疲れた化粧っ気のない顔をしていた。夜勤明けで、今まで寝ていたのだろう。
「ちょうどお風呂沸かしたところだから、先に入ってくる?」
「平気。少し濡れただけだから。お母さん、先に入りなよ」
「そう? ありがとう。風邪ひかないように、しっかり拭きなさいよ」
玄関で髪を拭いているわたしに背を向けようとした母が、ふと思い出したように振り返る。
「そういえば、健吾くんから聞いたわよ。昨日のこと。レストランでお祝いしてもらったあと、健吾くんに黙ってどこかに行っちゃったんでしょ。もう高校生になるのに、小さな子どもみたいなことして健吾くんに心配かけたらダメじゃない」
母が、眉をしかめて軽く注意してくる。強い口調で叱られたわけでもないし、ただ軽くたしなめられただけなのに、母の言葉がわたしの心を不快にさせる。
「健吾くんの後輩にもお世話をかけたんでしょ。お誕生日のお祝いのあとだったのに、何か嫌なことでもあった?」
母がにこっと笑いながら訊いてくる。笑顔の裏に見え隠れする探るような視線が、わたしの心をさらに苛立たせた。