母が夫を病気で亡くしたことを知った健吾くんは、わたし達親子のことを心配してとても気遣ってくれた。
当時小学生だったわたしにも優しくて、週末に勉強を教えてくれたり、車で遊びに連れて行ってくれたりもした。
大好きだった父がいなくなって哀しかったけど、健吾くんが会いに来てくれると明るく楽しい気持ちになれた。かっこよくて、優しくて、頼りになるお兄さん。そんな健吾くんのことをわたしが好きになったのは、ごく自然な流れだったと思う。
だけど、健吾くんが見ていたのはわたしではなくて母だった。
「お母さんも、最初は本当に弟みたいって思ってたのかもしれない。だけど、お父さんが亡くなって、健吾くんに支えてもらってるうちに好きになっちゃったのかな。わたしが気付かないあいだにふたりは恋人同士になってて。結婚まで決めちゃってた」
それなのに、わたしは何も知らずに健吾くんに恋してて。いつか健吾くんがわたしを好きにならないかなって思ってた。