「わたしのお母さんと健吾くんってね、実は実家が隣同士の幼なじみなの。健吾くんの両親は共働きだったから、健吾くんが小学生のときは、お母さんの実家で預かって、お母さんが勉強をみてあげたり、一緒にごはんを食べたりしてたみたい。健吾くんにとってのわたしのお母さんは、物心ついたときからそばにいる優しくて綺麗なお姉さんで……。憧れの人だったんだって」
左頬に、那央くんの視線を感じる。那央くんは何も言わなかったけれど、頬に感じる視線がわたしの話を待ってくれているような気がした。
「ふたりは年が十歳離れてて、初めて健吾くんに会ったときも、お母さんはわたしに『健吾くんは弟みたいなものなんだよ』って、紹介してくれた。わたしもそれを信じてた。だけど……、違った」
頭で考えるよりも先に言葉がぼとぼとと溢れ出してきて、止まらなくて。ずっと心の中に溜まっていた泥を落とす作業でもしてるみたいだ。
わたしが初めて健吾くんに会ったのは、実の父親が亡くなって少し経った頃だった。
夏休みで母方の祖母の家に行ったとき、母が社会人になったばかりの健吾くんとひさしぶりに再会したのだ。