最悪だ、と思った。誕生日にこんなことを思い知らされるなんて。
ふたりきりで大人のデートの真似事をしてみたって、あざとく触れてみたって、健吾くんの心には届かない。
彼は、わたしに振り向かない。
「沙里。俺、少し先のコンビニで絆創膏買ってくるよ」
気まずい沈黙を破ったのは、健吾くんだった。
「一緒にコンビニまで付いて歩ける? それとも、ここで待ってる?」
健吾くんが、車道の向こう側にあるコンビニを少し不自然な動きで指差す。
わたし達が立ち止まっているのは狭い歩道の真ん中で、しかも辺りは既に真っ暗だ。
普段ならこんなところで置き去りにされるのなんてごめんだし、靴擦れしていたとしても痛みを我慢して付いていくと思う。だけど、遠回しに振られて何事もなかったみたいにできるほど、わたしは能天気でも鈍感でもなかった。