「わたし、健吾くんのことが好き」
「俺も、沙里のこと好きだよ」

 わたしの気持ちに、健吾くんはふっと息を漏らしてそう答えた。健吾くんが漏らした吐息は、笑い声のようでもあったし、わたしをあやすようでもあった。

 わたしが言葉にした「好き」は、嘘でも冗談でもなくて本気なのに。健吾くんには少しも伝わっていない。

 健吾くんが返してくれた「好き」は、義理の娘に対する家族愛。だけど、わたしの「好き」は違う。


「そうじゃないよ。わたしの健吾くんに対する『好き』は──……」

 告白をなかったことにはされたくなくて、健吾くんのシャツの袖をつかんで顔を上げる。目が合った瞬間、健吾くんが複雑そうな表情を浮かべてわたしから視線をはずした。

 その反応で、全部わかってしまった。健吾くんが本当は、わたしが伝えた「好き」の意味に気が付いていることに。

 健吾くんは、わたしの気持ちに気が付いていて、わざと鈍感なフリをしている。

 わたしを傷付けないようにするための優しさもあるかもしれないけれど。それ以上に、母との関係は壊したくないからだ。