「沙里?」
健吾くんの戸惑ったような声が落ちてくる。それもそのはずだ。今のわたしたちの距離は、父親と年頃の娘の距離じゃない。
見る角度によっては、わたしが健吾くんに抱きついているように見えるだろう。もしも、このあいだのように誰かに見られて写真でも撮られてしまったら何の言い逃れもできない。どんなに鈍感な人にも、わたしの健吾くんへの気持ちは簡単に見破られてしまうだろう。
「好き……」
堪えきれなくなった感情が、唇から漏れる。それは、母と健吾くんの結婚が決まったときに消さなければいけないと思った感情だった。
母や健吾くんの幸せを考えたら、一生口にしてはいけない想いだった。だけど……。
わたしは未熟でバカだから、目の前にいる人への「好き」の気持ちをどうやって抑え込めばいいのかわからない。
だって、そばにいて優しく笑いかけられたら期待してしまう。もしかしたら、もしかしたら……って。限りなくゼロに近い可能性を、どうしたって捨てきれない。