「もしケーキ買うなら、急がないと。駅のケーキ屋、あと三十分で閉まるって」
わたしにスマホの情報を見せた健吾くんが、時間を気にして歩を速める。だけどわたしは、母のケーキを買うために急ごうとする健吾くんに素直に着いて行くことができなかった。
歩を速めるどころかその場で立ち止まっていると、健吾くんが振り返る。
「沙里、どうした?」
「え、っと。慣れないヒールを履いてるから、足が痛くて……」
「大丈夫? 靴擦れかな?」
健吾くんが、心配そうな顔でわたしのところまで戻ってくる。
まさか、健吾くんが自分の誕生日に母のことばかり気にするから嫉妬しましたなんて言えるわけもない。
足が痛いと言うのは咄嗟に口から出たウソの言い訳だったのに、健吾くんが思った以上に心配してくれたから嬉しくなった。