今日はわたしの誕生日なんだから、もっとわたしのことだけ見ていてくれればいいのに。そう思って、一生懸命に健吾くんに話しかけた。

 普段よりも着飾ったわたしを一秒でも長く視界に留めて置いてほしくて。どうでもいい、くだらないことをたくさん話した。

 友達の唯葉との会話とか、最近動画を見たお笑い芸人のネタの話とか。流行ってる音楽の話とか。それから、なんとなく顔が思い浮かんだ那央くんの話も少し。

 健吾くんは優しいから、わたしの話を聞いてたくさん笑ってくれた。

 初めて食べたフレンチのコース料理はどれも見た目が綺麗で美味しかったけど、わたしの子ども味覚では味わいきれない、大人の味がした。

 背伸びをしてみてもちょっとズレのあるその感じが、わたしと健吾くんとの距離を示唆しているみたいで。健吾くんとふたりきりで過ごせる誕生日が嬉しくて、楽して、幸せで仕方ないのに、心の何処かにずっと、言葉にできない空虚さがあった。

 コース料理の最後に出てきたデザートと紅茶をいただいたあと、わたし達は店を出た。