「……散歩、ですかね?」
「こんな夜遅くに、一人でか? ずいぶん軽装だけど、ご両親には声かけて出てきてるのか?」
「これから帰るところです」
「ふーん」

 葛城先生が、疑わしそうな目で見てくる。今日の放課後の一件もあるし、家出を疑われているのかもしれない。


「ほんとに、今から帰るところなので。葛城先生こそ、こんな時間に何してるんですか?」
「あぁ、俺は家がこの近くだから。飲み物の買い出しに」

 葛城先生が、手に持っていた買い物袋を軽く持ち上げる。そこには確かに、500mlのペットボトルが数本入っていた。


「いる?」

 買い物袋に手を入れた葛城先生が、そこからお茶のペットボトルを一本取り出して差し出してくる。


「いえ、別に……」
「そっか。で、岩瀬の家はここから近いの?」

 もらう義理もないから首を横に振ると、葛城先生がお茶を買い物袋の中に戻しながらおもむろに訊ねてきた。

 お茶を差し出してきたのは単に会話を繋げるためで、わたしが受け取ろうが受け取るまいが、どうでもよかったのかもしれない。