肌寒さに、また小さく身震いをする。濡れたままにしていた髪が冷えたせいか、くしゃみまで出てきた。
仕方がない。嫌だけど、本当にもう帰ろう。
苦々しい気持ちで自宅のほうに足を向けると、また、くしゃみがひとつ出る。
「あぁ、もう……」
ぼやきながら、ずずっと鼻を啜ったそのとき。
「岩瀬?」
後ろから声をかけられた。
嘘、こんな格好でいるときに知り合いに会うなんて最悪。
眉をしかめながら振り向くと、コンビニの買い物袋を持った葛城先生が立っていた。
放課後の化学準備室で三十分以上も顔を突き合わせたというのに、まさかこんな時間にこんな場所で会うなんて。けれど、目の前にいる相手を見て眉間を寄せているのは、わたしだけではなかった。
葛城先生も、夜遅くにひとりでうろうろしているわたしを不審に思っているのだろう。
「こんな時間に、こんなところで何してんだ? 岩瀬」
葛城先生が、化学準備室で向き合っていたときよりもずっと厳しい表情で問いかけてくる。