「そろそろ片付けようか」

 しばらくして、母が紅茶のカップをキッチンに運ぶために立ち上がる。


「俺、やるよ」

 すぐさま立ち上がった健吾くんが、母のことを抱き寄せてキスをした。軽めの触れるだけのキスだったけれど、健吾くんと母の行為が、わたしの心をかき乱した。

 両親の男女の部分を見てしまったときに、一般的な家庭の子どもはどんな感情になるんだろう。
 
 ショック? 気持ち悪い? 

 わたしは——、健吾くんよりも年上なのに、彼に女として見てもらえている母のことがうらやましい。
 
 どんなに優しい笑顔を向けてくれても、作った料理を褒めてくれても、健吾くんが恋愛感情を抱いている相手は母だ。

 わたしがどれだけ健吾くんに媚びたところで、その事実が覆ることは決してないのだ。

 お互いのことを大切そうに抱きしめて、微笑み合う母と健吾くん。わたしは、そんなふたりのあいだに踏み込めない。

 哀しい、切ない、羨ましい。胸の中で、言葉には表せないようなドス黒い感情が渦を巻く。

 わたしは唇をギュッと引き結ぶと、ワンフロアの廊下を一気に駆けて玄関を飛び出した。 

 ドアが閉まるときに、お風呂上がりで肩にかけたままにしていたフェイスタオルが落ちる。