ダイニングテーブルに食事を並べ終わる頃、部屋着に着替えた健吾くんが戻ってきた。
「おぉ、今日も美味そう。毎日帰ってきたら、沙里の作ったご飯が食べられるから、すげー幸せだよ」
ダイニングの椅子に腰かけながら、健吾くんが能天気にそんなことを言う。
「大げさだな」
ははっと空笑いを返しながら、健吾くんの言葉にちょっとだけ期待した。「沙里の作ったご飯が食べられて、幸せ」なんて、まるで新婚の旦那さんから奥さんにあてた誉め言葉みたいだったから。
「沙里はいつでも嫁に行けるな」
健吾くんが美味しそうに肉じゃがを頬張りながら、目を細める。
「じゃぁ、健吾くんがお嫁にもらってよ」
本気半分、冗談半分で言ったら、健吾くんに笑って躱された。
健吾くんは子どもの戯れ言だと思っているのかもしれないけど、わたしは彼が母の夫となった今でも僅かな希望を捨てきれずにいる。
母と再婚する前から、健吾くんはわたしにとても優しい。料理を褒めてくれるし、さっきみたいにさりげなく頭を撫でてくれることもある。
彼に優しくされるたび、わたしはいつも期待する。
いつか健吾くんが、母ではなくてわたしのことを女として見てくれる日が来るんじゃないか、って。そんな未来を、いつもいつも、バカみたいに想像してる。