「岩瀬ー、ココアできた」

 二枚の写真を呆然と見つめていたわたしは、背中から聞こえてきた那央くんの声に焦った。

「あ、ありがと……」

 バラバラになった写真立てを背中で隠すように本棚の前に立つと、淹れたてのココアをローテーブルに置いた那央くんが、不審げに近付いてきた。写真のことを隠すのも、何も見なかったフリをするのも不可能だった。

「あの、那央くん。ごめん……」

 視線をウロウロさせて挙動不審になるわたしに、那央くんが苦笑いする。

「いいよ、別に。不自然な置き方してた、おれが悪いんだし」

 那央くんはわたしの後ろの本棚に手を伸ばすと、写真立てと二枚の写真を拾い上げた。

「初めて来た岩瀬が気付くんだから、あいつに気付かれて当然だよな」

 二枚の写真を重ねて写真立てに入れながら、那央くんが自嘲気味に笑う。

 写真立ての表面に飾られているのは、元のとおり、那央くんと今の彼女が写っている写真だ。だけど写真立てを元に戻すとき、那央くんは、下に重ねた学生時代の写真のほうを切なげな表情で数秒見つめていたような気がする。

「もしかして、その写真のせいで彼女とケンカしたの? 下に重ねてた写真の女の子って……」
「おれが昔付き合ってた人で……、今の彼女の姉。五年前に、亡くなったんだ。交通事故で」

 写真立てに視線を落とした那央くんが、表面のガラスを指先で撫でる。そこに写っているのは、那央くんと今の彼女。

 だけど那央くんは、表に飾られた写真の向こうにいる誰かを虚ろに見つめているようだった。