高校入試は人生の分かれ道らしい。
偏差値が高い高校に行けば、良い就職先を手にする事が出来る……と言われているのはひとむかし前の話。
もちろん、今も高学歴しか取ってくれない会社があるものの、ほとんどの人間が進むのは中堅の高校だ。
社会を舐めていると思われるだろう。
でも、仕方がないのだ。
人の大多数の人間は凡人なのだから。
僕もその凡人のひとりだ。
三回目になる高校訪問に、僕は緊張をしていた。
五十分のテストを三教科受ける。
国語から始まり、数学で終わる。
国語は予想問題より漢字が難しかった。そして、英語はまあまあな出来だったと思う。
やはり、赤本通り、数学は難しかった。
結果が来るまでこれで落としたと思っていたほどだ。
そして、昼ご飯を食べてから面接を開始した。
二、三個質問され、僕は用意していた答えを言った。
予想がつく質問で本当に安心した。
それから家に帰ってから、ゲームや小説の世界に没頭した。
あの三日間は本当に楽しかった。
そして、数日後、入試結果がポストに投函された。
結果は合格。
僕から緊張はでていき、高校生活への期待が……でるわけなかった。
それから、僕はゲームや小説を執筆する日々を楽しみ、卒業までの時間を過ごしていった。
体に付いていた重りが一気に外された。
卒業までの時間は、主に執筆、ゲーム、友人関係で時間を過ごしていった。
執筆は現在も、他サイトで投稿している青春小説を主にしている。
この作品は僕の自信作でもあるし、これを書き始めてから国語の成績がこれまで以上に伸びた。
ゲームは、元素を操るRPGやサバイバルゲーム、謎につつまれた魔神を殺すゲームをよくやっていた。
そして、友人関係は主にオクさんグループとつるんでいた。
オクさんは人を強引に引きずるが結局は楽しかったと思えて帰っている事が多い。
オクさん、だんちょー、その彼氏、師匠、野球部でまだ関係があったクラスメイト、僕でよく遊んでいた。
受験が終わったから師匠の家で遊んだり。ゲームセンターに行って、メダルゲームで一日中粘ったり。
クレーンゲームでオクさんが一発で景品を当てたり。
だんちょーとその彼氏がイチャイチャしている所を見て、あの子の事が頭に浮かんで悲しくなったり。
色々とあった時間は、あっという間に過ぎ去り、友情を今も繋いでくれている。
「やっぱ、だんちょー見てるとさ。あの子の事が頭に浮かんでくるんだ」
「そっか……。別にそれは仕方ないんじゃないか? ずっと頭に浮かぶって事はその子のような想いを誰にもさせたくないって事だろ。彼女傷付けて、痛いレッテル貼られてもいつかは皆忘れる。それに対してお前が得たものは誰も忘れない。だから、傷付いてよかったと俺は思うけどなぁ……」
オクさんはダルそうに言う。
だけど、その言葉が僕にとって変化をきたすものだった。
夢を見た。
それは、僕がアイツやあの子を傷付けた夢だった。
今でも残っているハンマーの感触。
それを持ち、アイツの頭に向けて、ゆっくりと降り下ろす。
それで覚めてくれる夢ならどれほどよかったのだろうか。
それから、あの子の家の近くに居て、辺りを見渡す。
暗闇のなか、あの子が確かにこちらを見ていて、このせいで僕はストーカーと言われたのかと気がつく。
彼女と目が合うと意識が飛んだ。しかし、夢からは覚めない。
僕は、両親、担任の先生、そしてクラスメイトから冷ややかな目を向けられる。
そして、皆、僕から離れていく。クラスメイトも、オクさんたちも。
そこで夢は終わり、僕は最悪の気分で目覚める。
──もしも、あの日に戻れるなら。
僕は、部活に入らなかった。それなら、アイツを傷つける事もなかったし、自分も傷付く必要もなかった。
──誰も好きにならなければ。恋という概念が存在しなければ。
あの子に涙を流させる事もなかった。僕も最低になる事もなかった。
……なんて。
そんな事、もう二度と思わない。
むしろ、部活に入ってよかった。
協調性を少しでも身に付けれたから。
アイツとぶつかってよかった。
自分と合う人だけがいるわけじゃないと知ったから。
好きになってよかった。
人との距離感を覚えたから。
恋をしてよかった。
自分の命を代えてでも、護りたいものの価値が分かったから。
もし、あの日に戻れるなら。
少しでも輪の中に入れるかな。
ちゃんとした距離感であなたと接する事が出来るかな。
でも、何度戻ってほしいと思っても、願っても、もう、戻れない。
本当にありがとう。
何もない僕と共に過ごしてくれて。
とうとう卒業の日がやってきた。
僕は、親友といつも通り学校に行き、登校後は、朝早くから来ていただんちょーと話をする。
「今日で終わりか。高校頑張って」
「だんちょーも」
だんちょーには支えてくれる人がいるから、きっとこの先は大丈夫だろう。
オクさん、師匠も来て、きっと学校では最後になろう会話を楽しむ。
彼女らが居なければ、僕はバンド仲間に依存するところだった。そうなれば、距離感をまた間違えてしまっていたかもしれない。本当によかった。
卒業式が始まった。
入場後、すぐに卒業証書授与が始まった。
僕は、この三年間の想いを全て持ちながら、演台にあがり、受け取った。
そして、卒業の歌。
一曲目のバラード調の歌で泣いた。
なぜなら、僕の前列にあの子がいるから。
ライトに照らされた艶のあるショートカットの黒髪が儚げに見えたからだ。
二曲目に突入しても、涙は止まることはなかった。
ぼやけていく視界には、僕の願いのような世界があった。
アイツと友達になってあの子の相談者になって、彼とは親友になって皆、同じ制服を着た高校に登校している、ずっと願っていたもう叶わない世界が見えていた。
「お疲れ」
式終了後、親友が僕に駆け寄ってくる。
そして、なにも言わず、写真を撮った。
「……ありがとうな」
照れくさそうにそう言って、他の友達の所に行った。
それがありがたかった。
少し落ち着いた後、バンド仲間とオクさんたちと写真を撮った。
そして、僕は母校を離れた。
最後に視界に映ったのは、僕の見間違いだったのかもしれないけれど、あの子が、僕に小さく手を振って微笑んでくれていた。
そして、帰宅後、一度は落ち着いたはずの涙が再び溢れでた。
卒業式から数日後、僕はオクさんたちや親友、バンド仲間と遊ぶ日々を送っていた。
それは楽しかったし、そのおかげで今も友好な関係を築けている。
だけど、それよりも僕はここ最近ずっと見てしまう夢が気になって仕方がない。
その夢とは、卒業式のときに見た、僕とアイツ、あの子と彼が一緒に高校に登校している幻か都合のいい妄想だ。
もし、傷付けなければそんな未来はあったのかも知れない。
あの子と彼がイチャイチャしているのを、僕とアイツで見守っている。
僕は高校でも野球を続けて、レギュラーを取るため日々頑張る。
……そんな都合の良い夢を見ていた。
もう、それはどれだけ願っても叶わない事だけど。
アイツの事は、まだ許せていない。
あの子の事は、まだ好きなのかもしれない。
彼とは、友達でいれたのかもしれない。
だけど、それらは消えた。
青春って、どれもキラキラしているわけじゃない。それだけが知れたのなら、僕にとっては、大きな一歩かもしれない。
僕のように、後悔を背負いながら、今日も歩く。そんな日々がこれからも続いていくのだろう。
だから、僕は助けてあげたい。
自分と同じように後悔を背負っている人を。
自分を見失って、立ち止まっている人を。
それが、僕の出来る償いであり、あの痛みを、あの涙を、あの怒りを背負わなければいけない責任だから。
ベッドから抜け出す。
ふと、鏡を見ると、そこにいる自分は身長が伸び、少なからず自信に満ちているように見えた。
過去と決別するって、きっとこういう事だと思う。
忘れるでも、心に刻むでもない。
片隅に大切に保管をしておく。
そして、自分の境遇に違和感を感じたときに見返す。
そして、その過去の自分と比べてどんな人間になっているか。
それが、過去と決別するって事だと思う。
僕の中学校生活はこれで終わり。
だけど、僕の物語は、まだ終わらない。
未来の僕にひと言。
この日から僕は後悔を背負いました。
だけど、これを見るのはきっと辛いでしょう。痛いでしょう。苦しいでしょう。
だけど、目を逸らさずに見てほしい。
これが僕の生きてきた証だから。
青春は、始まったばかり。
次あなたたちに会える時は泣いて喜ぼう。
***
ここまで書けたということは、中学校生活が本当に終わったということだろう。
やっと終わってよかったという気持ちと前に進まなければいけないという気持ちが今の僕にはある。
一年前の僕というのは本当に拙く、幼く、弱い人間だとこれを読んで改めて思い知らされた。
この青春には、続きがあると言えば、昔の僕や皆さんはどんな反応をするのだろうか。
青春なんてないと言ったじゃないかと怒られそうだが、この青春に続きはある。
しかし、ちゃんと決めたことは変わらない。
《傷付けない・傷付かない》は、今もきちんと守っている。上手くやれている。
さて、青春の続きは、まだ中学生の頃の物語だ。高校生になる前の、暗く、幼く、それでも光を求めて前へ進もうとする少年のとある春の物語がもうすぐ、始まるよ。
長い冬は終わった──
──The end of a long winter
The arrival of spring──
──春の訪れと共に。
***
『青春の罪と罰1.5 ─The arrival of spring─』に続く。投稿をお楽しみに!