夢を見た。

 それは、僕がアイツやあの子を傷付けた夢だった。

 今でも残っているハンマーの感触。

 それを持ち、アイツの頭に向けて、ゆっくりと降り下ろす。

 それで覚めてくれる夢ならどれほどよかったのだろうか。

 それから、あの子の家の近くに居て、辺りを見渡す。

 暗闇のなか、あの子が確かにこちらを見ていて、このせいで僕はストーカーと言われたのかと気がつく。

 彼女と目が合うと意識が飛んだ。しかし、夢からは覚めない。

 僕は、両親、担任の先生、そしてクラスメイトから冷ややかな目を向けられる。

 そして、皆、僕から離れていく。クラスメイトも、オクさんたちも。

 そこで夢は終わり、僕は最悪の気分で目覚める。

 ──もしも、あの日に戻れるなら。

 僕は、部活に入らなかった。それなら、アイツを傷つける事もなかったし、自分も傷付く必要もなかった。

 ──誰も好きにならなければ。恋という概念が存在しなければ。

 あの子に涙を流させる事もなかった。僕も最低になる事もなかった。

 ……なんて。

 そんな事、もう二度と思わない。

 むしろ、部活に入ってよかった。

 協調性を少しでも身に付けれたから。

 アイツとぶつかってよかった。

 自分と合う人だけがいるわけじゃないと知ったから。
 
 好きになってよかった。

 人との距離感を覚えたから。

 恋をしてよかった。

 自分の命を代えてでも、(まも)りたいものの価値が分かったから。

 もし、あの日に戻れるなら。

 少しでも輪の中に入れるかな。

 ちゃんとした距離感であなたと接する事が出来るかな。

 でも、何度戻ってほしいと思っても、願っても、もう、戻れない。

 本当にありがとう。

 何もない僕と共に過ごしてくれて。