その日の放課後。

 担任の先生に僕は呼ばれた。

 グラウンドから野球部の声が聞こえる。

 アイツらは僕の事なんて忘れて、呑気(のんき)に野球をやっているのだろう。

 野球部にも、はいらなければよかった。

 傷付いただけだ。

「とりあえず、ここに座ってくれる?」

 生徒指導室のソファーに座る。

 ちょうど去年のこのくらいの時期に、野球部のあの日が起きた。

 久しぶりの感覚に懐かしさは覚えたものの、それすら不快だった。

「あのね、恋する事は悪くないよ」

 担任の女先生は、開口一番に恋愛について語ってくれた。

「でも、想い過ぎた気持ちは人を傷付けてしまう」

 言葉のひとつひとつが重くて。

 僕はそれを聞くだけで涙が(あふ)れてきた。

 泣きたいのは、あの子や彼だろうに。

「僕は」

 感覚が無くなりつつある中で口を一生懸命動かす。

「あの子が本当に好きでした」

「自分勝手な物語を作って、傷付けてしまいました。そして、たまたまそこに居たからストーカーと思われたかもしれません」

「本当に、ごめんなさい」

 謝っても、意味の無いことだと分かっている。

「彼女は、謝罪を求めていないよ。彼女が求めているのは──」

 この先、あの子より良い人がいるかもしれない。

 高校には居ないけど、大学にもしかしたら居るのかもしれない。

 この先の事は誰にも分からない。

 僕が、過去をやり直せるなら──

「──これからの態度だよ。どんな距離感で人と関わるのかを見ているはずだから」

 ──適切な距離で人と関われる人間に今からでもなりたい。