「お前がそんなヤツだとは思ってなかったよ。本当、最低だな。あの子は、俺の彼女だ。もう近付くなよ」

 胸ぐらを掴まれ、僕は身動きがとれない。

 最低だなんて事は自分でも分かっているんだ。

 なんで、こんな状況になっているのかは、あの子の彼が僕を呼び出した事から始まった。

 昔から彼とはずっと一緒だった。

 幼稚園から小学校までは仲がよかった。

 中学校に入ってからもたまに一緒に帰ったりもした。

『もう、慣れたか?』『なぁに、空睨んでるんだよ』『なんかあったら連絡してくれよ』

 そうやって、僕はまるで兄貴のような存在の彼に憧れていた。

 だけど、僕は逆にお前に(だま)されていたよ。

 嫉妬(しっと)や思い込みだと思われてもいい。

 僕に何かあったら連絡してくれというなら、お前だって、僕に相談くらいしてくれたらよかっただろ。

「……ふっ、ざけるな!」

 僕は、彼を突き飛ばす。

 宙に浮いていた体が地面につき、彼は数歩後ろに後ずさる。

「ぼっ、僕が、こうなったのも、全部お前のせいだ。僕にちょっとくらい相談してくれてもよかったじゃないか! もういい! もう、恋なんかするかよ」

 我ながら、ヤバイ開き直り方。

 僕は逃げるように教室に戻った。

 全部、お前らのせいだ。

 僕が傷付いたのも。

 お前を信じなければよかった。

 あの子を好きにならなければよかった。

 恋なんてもうするか。