──このときはまだ、なにも知らなかった。

 入学式というのは、とても残酷(ざんこく)なものだ。名前もなにも知らない子たちとお互いなにも分からないまま、時間が過ぎ去るのを待つしかできないのだから。

 そのときの自分が何を考えていたかは覚えていないが、一番記憶に残っているのは、全然分からない校歌を斉唱(せいしょう)しなければいけないときに、キョロキョロと辺りを見渡していたことだ。

 疑問符(ぎもんふ)をいっぱい付けながら辺りを見渡していたことはよくなぜか記憶に残っている。

 体育館は僕らが入学前に工事していたらしく、新鮮なヒノキの匂いが新しい季節の期待を僕に埋めていた。

 部活動はどんなものなのか。

 上手く勉強に追い付いていけるのか等。

 まさしく、『不安と期待を胸に抱く』。新入生の代表の挨拶のテンプレの言葉である。

 まぁ、それを僕が言ったわけじゃなく、もしそれを言えるなら、もっとしっかりしていて、人を傷つけることなんてするわけがない。

 それから、入学式は(とどこお)りなく終わった。

 クラス対面式をするため、僕らは自身の教室に向かった。

 新しいクラスに僕はやはり期待を持っていた。

 僕の自己紹介は誰かの興味を引く趣味も面白さもなく終わったと思う。

 記憶から薄れていっているから鮮明には思い出せないけど。

 こうして、僕の愚かな一年目が始まった。

 期待なんて、しなければいいのに。