今思えば、これが僕が楽器に触れるキッカケだった。

 その一言で機会が出来たのだから、本当に言葉の持つ力は凄い。

「……僕と、バンドを組まないか?」

 人を自分の夢に誘う事は初めてだった。

 どんな反応をされるのか分からない。

 これを言ったことで、また誰かに迷惑をかけるのかも知れない。

 でも、人よりなにか()けている部分があるのなら。

 その分野でトップとれたら。

 僕は、(くつがえ)せるかもしれない。この状況を。

 そして、僕はもしかしたらアイツを見返せるかもしれない。

 とこのときは思っていた。本当に嫌いだったから僕はアイツに勝てるならなんだってしてやると思っていた。

 また調子に乗っていたのかもしれない。

 野球を辞めたから何か他に出来る事を探して、行き当たりばったりでギターを購入したのだ。

 最初は全然できなかった。

 しかし、親父の弟……つまり叔父に教わり、少しずつ上達して現在に至る。

 四月十五日。

「俺で良ければ、楽器なんて弾いたことないけどよろしく」

 バンド仲間は僕にそう言った。

 眼鏡の奥の澱んでいた瞳を光らせて。

 その日から僕らのデュオが結成された。

 そして、僕らは約一年後の九月。初ライブを決行の日。

 あの日までの短い時間のデュオは、膝の砂を払って立ち上がる。

 これは、僕らが底辺からギターで成り上がるまでの物語だ。