気が付くと、自室のベッドに寝かされていた。
「力の使い過ぎだ、ボケ」
起きた瞬間、耳に届いた言葉はそれ。
「あ、一歳さん……。おはようございます」
呑気に朝の挨拶を交わそうとする氷月を見た一歳は、ふっと鼻で笑った。
「お前が無事で良かったよ」
「ええ、私もまさか生きているとは思いませんでした」
「相変わらずだな、お前は」
氷月がベッドの上で身体を起こそうとすると、なぜか一歳が背中に手を添えてきた。
「起きられるか?」
「ええ。何も、問題はありません」
「そうか、それは良かった」
一歳は、勝手にベッドの足元の方に座る。
「氷月。お前、俺の元に来い」
「え?」
「俺はお前が欲しい」
「ですが、私は烏賀陽の人間です。日永田の元に行くことはできません」
「それも違う。お前は朝陽の娘で、日永田の人間だ。だから、今、鬼を視ることができない」
「え?」
一歳の言っていることに、氷月はついていけない。
「日永田の人間が烏賀陽の訓練を受けても、鬼を視ることはできないんだ。だから、日永田の鬼遣いとしてお前を鍛え直す。しかも、貴重な結界使いだ。俺がお前を手放すわけがないだろう」
「それは、鬼遣いとして?」
「いや、一人の人間として。お前は覚えていないのか? まあ、いい」
覚えていない? 何を。
一歳は気になることしか言わない。そして気になるだけ気にならせて、答えは与えてくれない。
「とりあえず、だ。お前の姉たちがお前に厳しくしていたのは、この烏賀陽の家から追い出すためだ。だからって、お前を疎んでいたとか、そういうわけじゃないぞ? 細かい話はお前の姉たちから聞いたほうがいいな」
なんとなくわかったような、わからないような。そして、それに加えて兄たちからの同情の視線から推測するに。
恐らく、氷月はここにいてはいけない人間だったのだろう。まして烏賀陽の人間でないとするのであれば。
「氷月。お前の真名を教えろ」
「それは日永田の頭領としてのご命令ですか?」
「いや、俺の個人的な願い。お前を手に入れたいから、だな」
困ったような一歳の顔が、思っていたよりも幼く見え、氷月はくすりと笑みを漏らしてしまった。
「前も言っただろう。お前はそうやって笑っていた方がいい。ついでに言うと、髪型もなんとかしろ。今どき三つ編みおさげの女子高生なんてド田舎の高校にだっていないぞ?」
言うと、一歳は氷月の髪に手を伸ばし、そのおさげを解く。
「ああ、やっぱり。俺が思っていた通りだ」
「……っ」
小さく、氷月は名を呟いた。それは、氷月が氷月になる前に使っていた名前。烏賀陽の人間になってからは捨ててしまった名前。
「そうか、いい名だな。そういう名を娘につけたところが、朝陽らしいな。よし」
そこで一歳は氷月の真名を呼ぶ。
「俺と結婚しろ。俺の隣にいろ。俺と共に歩め」
「え?」
「お前の真名をもらった。お前に拒否権は無い」
「私。まだ高一なんですが」
「お前が大人になるまで待ってやる」
「いや、そもそも、一歳さんはおいくつなんですか?」
ここで一回り以上も年が離れていたらどうしようとか、氷月は不安になっていた。
「なんだ? 俺の年が気になるのか? 俺だってまだ学生だ」
「え?」
この顔でこの態度で、そして日永田の頭領であるにも関わらず。学生という言葉には驚きしかない。
「老け顔?」
「お前。人が気にしていることを」
と笑いながら一歳は顔を氷月に近づけ、そっと優しく口づけた。
「お前に拒否権は無い」
【完】
「力の使い過ぎだ、ボケ」
起きた瞬間、耳に届いた言葉はそれ。
「あ、一歳さん……。おはようございます」
呑気に朝の挨拶を交わそうとする氷月を見た一歳は、ふっと鼻で笑った。
「お前が無事で良かったよ」
「ええ、私もまさか生きているとは思いませんでした」
「相変わらずだな、お前は」
氷月がベッドの上で身体を起こそうとすると、なぜか一歳が背中に手を添えてきた。
「起きられるか?」
「ええ。何も、問題はありません」
「そうか、それは良かった」
一歳は、勝手にベッドの足元の方に座る。
「氷月。お前、俺の元に来い」
「え?」
「俺はお前が欲しい」
「ですが、私は烏賀陽の人間です。日永田の元に行くことはできません」
「それも違う。お前は朝陽の娘で、日永田の人間だ。だから、今、鬼を視ることができない」
「え?」
一歳の言っていることに、氷月はついていけない。
「日永田の人間が烏賀陽の訓練を受けても、鬼を視ることはできないんだ。だから、日永田の鬼遣いとしてお前を鍛え直す。しかも、貴重な結界使いだ。俺がお前を手放すわけがないだろう」
「それは、鬼遣いとして?」
「いや、一人の人間として。お前は覚えていないのか? まあ、いい」
覚えていない? 何を。
一歳は気になることしか言わない。そして気になるだけ気にならせて、答えは与えてくれない。
「とりあえず、だ。お前の姉たちがお前に厳しくしていたのは、この烏賀陽の家から追い出すためだ。だからって、お前を疎んでいたとか、そういうわけじゃないぞ? 細かい話はお前の姉たちから聞いたほうがいいな」
なんとなくわかったような、わからないような。そして、それに加えて兄たちからの同情の視線から推測するに。
恐らく、氷月はここにいてはいけない人間だったのだろう。まして烏賀陽の人間でないとするのであれば。
「氷月。お前の真名を教えろ」
「それは日永田の頭領としてのご命令ですか?」
「いや、俺の個人的な願い。お前を手に入れたいから、だな」
困ったような一歳の顔が、思っていたよりも幼く見え、氷月はくすりと笑みを漏らしてしまった。
「前も言っただろう。お前はそうやって笑っていた方がいい。ついでに言うと、髪型もなんとかしろ。今どき三つ編みおさげの女子高生なんてド田舎の高校にだっていないぞ?」
言うと、一歳は氷月の髪に手を伸ばし、そのおさげを解く。
「ああ、やっぱり。俺が思っていた通りだ」
「……っ」
小さく、氷月は名を呟いた。それは、氷月が氷月になる前に使っていた名前。烏賀陽の人間になってからは捨ててしまった名前。
「そうか、いい名だな。そういう名を娘につけたところが、朝陽らしいな。よし」
そこで一歳は氷月の真名を呼ぶ。
「俺と結婚しろ。俺の隣にいろ。俺と共に歩め」
「え?」
「お前の真名をもらった。お前に拒否権は無い」
「私。まだ高一なんですが」
「お前が大人になるまで待ってやる」
「いや、そもそも、一歳さんはおいくつなんですか?」
ここで一回り以上も年が離れていたらどうしようとか、氷月は不安になっていた。
「なんだ? 俺の年が気になるのか? 俺だってまだ学生だ」
「え?」
この顔でこの態度で、そして日永田の頭領であるにも関わらず。学生という言葉には驚きしかない。
「老け顔?」
「お前。人が気にしていることを」
と笑いながら一歳は顔を氷月に近づけ、そっと優しく口づけた。
「お前に拒否権は無い」
【完】



