――鬼は気であり、気は鬼である。

☆☆☆

「この役立たずが」
 甲高い声がピシャリと響いた。
「あんたのせいで、皐月(さつき)が怪我をしてしまったじゃないの」
 皐月と呼ばれた少女は、右手に包帯を巻いていた。その手の平と手の甲を覆うかのように。
「あんた、本当にお荷物なんだから。この烏賀陽(うがひ)一族の恥よ、恥。なぜ、お父様もあんたみたいな子を引き取ったのかしら」

睦月(むつき)姉さん、私の怪我は大したことありませんから」
 皐月と呼ばれた少女が、キリキリと甲高い声を上げ続けている睦月を宥めていた。

「あんた、目障り。さっさと部屋に戻りなさい。」

 先ほどから睦月があんた呼ばわりしている少女には氷月(ひょうげつ)という名がある。ひょろりと細くて、背も低い。黒い髪は耳の下で二つにおさげにされていた。

「はい……。睦月姉さま、皐月姉さま、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 消え入るような声でそう呟くと、身体を重そうに引きずりながら、部屋へと戻っていく。その後ろ姿にさえ、悪態をつく睦月。

「本当に、何なのあの子。能力(ちから)も使えない癖に、なぜこの烏賀陽家の屋敷にとどまっているの?」

「それは、お父様にはお父様の考えがあってのことだと思います」

 皐月もこの睦月には強く言い返すことはできない。何しろ睦月は皐月の姉的な存在なのだから。いや、間違いなく姉だ。半分だけ血が繋がっている。

「皐月。軽い怪我だからって甘くみないで頂戴。あなた、あの鬼に咬まれたのよ。放っておかないで、きちんと数時間おきに怪我の治りを確認するのよ」

 言葉はきついのに、言っていることは優しい。それは、相手が皐月だからだ。
 基本的に睦月は優しい姉だ。ただし、一番下の妹の氷月を除く。