切り詰めて作ったおかゆと、庭で育てている菜葉のおひたしと、薄い味噌汁。
それがいつもの救児院の朝食だ。
今は真冬なので、おかずは小カブの菜葉がわずかにあるばかり。
だが、今日は特別だ。

「今日はね、卵焼きがあるよ」
「すごおおい!!」

養父母たちの食べ残しを包んできた卵焼きを懐から取り出すと、子どもたちが歓声をあげた。
唐紅の家で拵えてきた握り飯は、昼に食べる。
夕食は和泉が唐紅家の炊事につきっきりになってしまうが、雑炊やおじやを食べているようだ。

「和泉ねえ、ちゃんと寝てるか?」
「ありがとうね、一弥(いちや)。大丈夫よ」

心配そうに和泉を案じているのが、一弥。
今年で十二になった、いちばん年長の男の子だ。
庭仕事や身の回りのことなどは、彼が一手に引き受けている。

「あ! そのたまご、ふたばのだよ」
「うっせー! おれのだよ」

子どもらしい喧嘩をしているのは、ふたばと次郎だ。
どちらも六つ。
男女の双子は縁起が悪い、とそれぞれ別の家から捨てられた子たち。
血はつながらないが、本当の双子のように仲がいい。それこそ、喧嘩をするほどに。

「ふふ。ほら、私の分を食べてね」
「えっ」
「でも、和泉ねえさまのぶんは……?」

和泉が差し出した卵焼きを、ふたばと次郎がじぃっと見つめる。
皆、育ち盛りだ。
和泉のやりくりがあっても、いつもお腹を空かせている。
朝一番に和泉が拵えた卵焼きは、もうすぐやってくる春に咲く菜の花みたいに鮮やかな黄色だ。
とても、おいしそう。
ふたばと次郎は、先ほどまでの小競いあいを忘れたように顔を見合わせる。

「私は、大丈夫。さっきたっぷり朝食をいただいたからね」

これはもちろん、嘘だ。
あの家で和泉に回ってくるのは、僅かな米と残りものばかり。
朝食のときには、それらも孤児院の子どもたちのために手をつけないことにしている。

「さ、食べて」

ふたばも次郎も、そして三つになったばかりの末っ子、みつ子に粥を食べさせている一弥だって、和泉の優しい嘘に気づいているのだろう。

「……ありがとう。おねぇちゃん、おいしいよ!」

そして、和泉のその気遣いを、断らないことが優しさだということも。

「よかった。少なくてごめんね、たくさんたべて」
「うん!」
「おにぎりは、和泉ねぇちゃんにあげる! おれとふたばと半分こするからさ」
「そうだよ、そうだよ! ふたば、おなかいーっぱい」
「……うん、ありがとうね」
「おい、おまえら。食ったらすぐ片付けして、和泉ねぇの手伝いするんだからな」
「「はーい!」」

唐紅救児院は、貧しい。
けれども、お互いに労りあって、助け合って生きている。
この場所が、自分の居場所だと──うっすらとだが思える。

和泉にとっては、それが日々の拠り所だった。
この子たちが立派に育って巣立っていくとき、自分はもしかしたら、すこしだけ「しあわせ」を感じられるのかもしれないと、そんなふうに思っている。