帝とも親しげに話す虹治は、一体何者なのだろう。
いや、もしかしたら、そもそも悠祈は本当に帝なのだろうか。
本来、こうして庶民である和泉が直接拝謁すること自体が、不敬にあたる相手だ。
もちろん、新聞社ですら尊いお方の写真を掲載するのを「あるまじきこと」としている風潮がある。
だから、当然、数年前に若くして帝位を継いだという若き帝の顔を、和泉は知らない。
……揶揄われているのかもしれない。
いや、しかし、虹治がそういった類の冗談をいうような男だとは思えない。
「うんうん。これで我が友であり、我が國の至宝である龍も安泰だねー」
「……龍」
耳慣れない単語が悠祈の口から飛び出す。
あの、御伽噺の龍のことだろうか。
「おやおや。この反応は、もしや、まだ知らせていないのか」
「……今、まさに話そうかどうか迷っていたところに、陛下がご乱入あそばしたのだ」
「ははは、それは失礼!」
悠祈が、どかりとあぐらをかいて座る。
「では、俺から伝えよう。天啓を賜ったとはいえ、俺が銀夜に無理をいって、ふたりを引き合わせたのだから」
「は、はい……?」
ぽかんとしている和泉に向き直り、まっすぐに視線を合わせて言った。
「君の婚約者となった滝ヶ原虹治は、我が竹馬の友であり──大和國の至宝たる、龍の末裔だ」
◆
いにしえの龍の末裔、秘匿された国家防衛の要──そんな信じがたいような話を聞きながら、和泉はなんとなく納得してしまった。
虹治のまとう、つねならぬ空気。
美しすぎる容姿。
それこそ、彼が龍であるといわれれば納得できるものだった。
悠祈から一通りの説明が終わると、虹治が重い口を開いた。
「すまない、驚いただろう」
「……いえ、その」
「あはは、相手が龍だなんて言われたら、どう接したらいいかわからないだろう?」
悠祈の言葉に、和泉は首を振る。
「いいえ、それはございません」
「ほう?」
「……人の立場や、肩書きが変わったところで、その方の芯──本質、が変わるわけではないと……思いますので……」
和泉は十七年の人生で、いくども自分の立場や肩書き──和泉という存在に貼り付けられる札が変わるのを経験してきた。
ほとんど記憶がない幼い頃に、「みなしご」になった。
姉の必死の計らいで、地域の豪族であった唐紅家の「養女」になった。
なんとか通うことを許された尋常小学校では「生徒」であり。
数年前に『唐紅救児院』ができて、形のうえで「寮母」となった。
けれど、その間に、和泉の本質が変わったことは一度もない。
変わったのは──周囲の和泉へのまなざし、そして、接し方だけだ。
いや、もしかしたら、そもそも悠祈は本当に帝なのだろうか。
本来、こうして庶民である和泉が直接拝謁すること自体が、不敬にあたる相手だ。
もちろん、新聞社ですら尊いお方の写真を掲載するのを「あるまじきこと」としている風潮がある。
だから、当然、数年前に若くして帝位を継いだという若き帝の顔を、和泉は知らない。
……揶揄われているのかもしれない。
いや、しかし、虹治がそういった類の冗談をいうような男だとは思えない。
「うんうん。これで我が友であり、我が國の至宝である龍も安泰だねー」
「……龍」
耳慣れない単語が悠祈の口から飛び出す。
あの、御伽噺の龍のことだろうか。
「おやおや。この反応は、もしや、まだ知らせていないのか」
「……今、まさに話そうかどうか迷っていたところに、陛下がご乱入あそばしたのだ」
「ははは、それは失礼!」
悠祈が、どかりとあぐらをかいて座る。
「では、俺から伝えよう。天啓を賜ったとはいえ、俺が銀夜に無理をいって、ふたりを引き合わせたのだから」
「は、はい……?」
ぽかんとしている和泉に向き直り、まっすぐに視線を合わせて言った。
「君の婚約者となった滝ヶ原虹治は、我が竹馬の友であり──大和國の至宝たる、龍の末裔だ」
◆
いにしえの龍の末裔、秘匿された国家防衛の要──そんな信じがたいような話を聞きながら、和泉はなんとなく納得してしまった。
虹治のまとう、つねならぬ空気。
美しすぎる容姿。
それこそ、彼が龍であるといわれれば納得できるものだった。
悠祈から一通りの説明が終わると、虹治が重い口を開いた。
「すまない、驚いただろう」
「……いえ、その」
「あはは、相手が龍だなんて言われたら、どう接したらいいかわからないだろう?」
悠祈の言葉に、和泉は首を振る。
「いいえ、それはございません」
「ほう?」
「……人の立場や、肩書きが変わったところで、その方の芯──本質、が変わるわけではないと……思いますので……」
和泉は十七年の人生で、いくども自分の立場や肩書き──和泉という存在に貼り付けられる札が変わるのを経験してきた。
ほとんど記憶がない幼い頃に、「みなしご」になった。
姉の必死の計らいで、地域の豪族であった唐紅家の「養女」になった。
なんとか通うことを許された尋常小学校では「生徒」であり。
数年前に『唐紅救児院』ができて、形のうえで「寮母」となった。
けれど、その間に、和泉の本質が変わったことは一度もない。
変わったのは──周囲の和泉へのまなざし、そして、接し方だけだ。