「不味い! こんなに不味くして、お米に申し訳ないと思わないのか」

養父、菊次郎の冷たい声が響く。
和泉は深々と頭を下げる。

「申し訳ございません、お父様」

和泉の声を遮るように、刺々しい声で養母、和江が舌打ちをする。

「まったく。あなたの姉から送られてくる端金がなければ、すぐにでも追い出してるところだわ」
「……はい。感謝、しております」

大きなため息とともに義理の姉、椿が茶碗を置いた。

「ああ、そう言っていれば事が済むと思って……頭の弱い子って、可哀想」
「申し訳ございません……生きていて、ごめんなさい」

養父、養母、義理の姉。
いずれも、大島の紬や絹物の振袖といった上等な着物姿だ。
対して、和泉はつぎはぎだらけの木綿の(ひとえ)

年が明けて間もない真冬の朝である。
しんしんと冷えた空気と早朝からの水仕事が、和泉の手足を痛めつけていた。

(……いえ、それでも感謝しなくては。お姉さまが、私を生かしてくださっているのだから)

幼い頃に両親と死に別れ、この唐紅家の養女となった。
顔も覚えていない姉が、どうにか金を工面して頼み込んでくれたのだという。
姉の送金が、かろうじて和泉の衣食住を補償してくれている蜘蛛の糸だ。それが切れれば、この人たちは躊躇いなく和泉を捨てるだろう。

大和國は、まだまだ貧しい。
花の帝都はともかく、寒村ともなれば飢えるものもいる。
身寄りのない和泉が生きていくには、この場所にしがみつくしかないように思われた。

お前など、よそで生きていけるものか。
できそこない。おちこぼれ。
頭の悪い、ズタボロ女。

そう言われ続けて生きてきた。
和泉には、この場所から逃げ出すための力はもはや残っていない。

下働きよりも、もっと酷い暮らしだ。
文句と悪態のなかで、朝食の時間が終わる。
和泉は自分の食事には手をつけず、洗い物や掃除などを手早く終えて唐紅家の勝手口から抜け出した。

「……さて、と」

隣接する、石造の建物。
ごてごてと飾り立てられた平家造の唐紅家とは異なり、機能的ではあるがそっけない西洋造り。

『唐紅救児院』。

御維新のどさくさで財を成した唐紅家が、見栄と世間体と、そして政府からの助成金を得るために運営している小さな孤児院だ。

和泉は、この孤児院の運営を丸投げされていた。
助成金はもちろん中抜きされているから、運営費は火の車。
子どもたちは何も悪くない。

「おはよう、みんな。朝食ですよ」

だから、和泉は自分の食事を削って子どもたちに分け与えていた。
小さな子が腹をすかせているのは、胸が引き裂かれるような思いになる。
それならば、自分が飢えるほうがいい。

「和泉おねえさま、おはようございます!」
「「ます!」」
「……まっす」

里子に出された子も多く、今いるのは四人の孤児(みなしご)だ。
助け合って暮らし、和泉を頼ってくれる子どもたちが笑顔で迎えてくれる。

彼らの笑顔を見ると、自分がくじけるわけにはいかないと背筋が伸びる。